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ピンクのイルカが夢を見た 2-2

 葬儀には参加しなかった。
 実家のある岡山で行われた葬儀には、三年緑組の学級委員と、白雪寮の男女それぞれの寮委員長が代表として出席した。他に有志も参列し、羽美子はもちろん、慶も梨々香も岡山に行った。
 有人は行かなかった。
 冷たいと羽美子に責められた。梨々香には凄みのある目で睨まれた。
 実際には「行けなかった」のだ。足を運び立ち合うことで、あの子の殺害と自分が本当に結びついてしまうような気がして―
 岡山にも多くの報道陣が殺到し、カメラの放列でまるで見せ物だったと羽美子は憤った。涙ぐむ彼女に優しい子だなあと有人は自嘲した。
 羽美子たちが葬儀から帰るのを見計らったかのように、週刊誌がいっせいに事件を書き立て始めた。むさぼるように読んだが、嫌気がさすまでにたいして時間はかからなかった。

 「『松法式健康法』の一人娘が惨殺される!」
 この記事は「一人娘」から間違いだ。まつみには薬剤師になったばかりの姉がいる。
 「惨殺」はその通りだが。
 遺体は首から胴にかけての前半分が、十数センチごとに切り開かれていた。輪切りにしかけたような形だ。ある週刊誌には「新巻鮭のように」と描写されていて、有人には意味がわからず母に聞いて余計ショックを受けた。
 不幸中の幸いは、それが死後の傷であることだ。犯人は遺体をバラバラにしようとして、骨を切れず止めたものと見られている。少なくともあの子は、体を切り裂かれる苦痛と恐怖に面することはなかった。

 死因は柔らかい布状のものでの絞殺。
 発見したのは公園を管理する役所の職員。
 まつみの携帯が発見されてから、警察はその清掃会社が担当している各施設に、若い女性の行方不明事件が発生しているので何か心当たりがあったら教えてほしいと知らせた。職員はそれを読んで担当であるいくつかの公園を自主パトロールし、海浜公園の植え込み横の土の状態が不自然だと気付いた。作業員と相談の上掘り返し、彼女をーいや彼女の抜け殻をー発見した次第だ。
 遺体はしばらく埋められていたため状態が良くなく、殺害時期は一ヶ月以上前としか判定出来ない、と警察は発表した。まつみが寮から姿を消したのは、ひと月半ほど前。有人たちをあざわらうように、失踪から遠くない時期に殺されていたことになる。
 実際には警察は、失踪直後に殺害されたと考えていた。
 遺体と着衣から多量の雨に濡れたと思われる成分が検出された。このあたりでそれほどの雨が降ったのは、失踪した日の夜十二時過ぎから翌三時頃まで。遺体の状態から生きている間に雨に濡れ、その後時間を待たず死亡したと見られている。
 殺害現場は確定されていない。公園最寄り駅近くの駐輪場に残留物(血痕らしい)が発見されたが、少し離れた海浜公園内の公衆便所にもまつみの服の繊維があったという。
 どちらにしろ発見現場から遠くない場所で殺害されたと推定されている。

「『風邪ひとつひかない健康な生活』で殺された娘」
 まつみの両親が、おじさんおばさん世代の「健康の教祖」で、想像以上の有名人だと有人は初めて知った。
 健康な生活を標榜していた「教祖」夫妻の娘が、病気どころか全身を切り刻まれて殺害された。愛情と気配りで心身共に健康な成長など主張するより足元を見るべきだった―揶揄した記事に有人は激怒した。どう注意しようと悪意に乗っ取られた人間は襲ってくる。被害者にも家族にも責任なんてない!
 ワイドショーではまつみの父が健康な生活を語る講演や、母が楽しげに料理を実演する映像が繰り返され、悪意と野次馬根性に満ちたナレーションに有人は度々耳をふさいだ。

「松法さとえ料理工房 福岡支部」
 の看板の前。
『ちょっと! 押さないで!』
 スタッフらしい女が怒鳴る。レポーターとの押し合いで揺れる映像。やがてさとえが、かばわれながら姿を見せる。前よりも地味な、顔色が悪い時の素のような色の口紅を前以上にべったり塗っている。メイクの意味がよくわからない。
『松法さんは後から、同じフロアの会社に迷惑をかけて済まないと自ら謝って回ったそうです!』
 当然だ。レポーターは誰のせいだと思っている?

「松法式健康法 しぜんのちから学校」
 今度は都内。集まるカメラを避け松法秀英《しゅうえい》医師《ドクター》はマスコミに姿を見せず会場に入った。が潜入記者が講演会の音声を録音し、建物映像にかぶせて放送した。
『人生には苦難などない!』
 太陽が照り、雨が皆の頭上に平等に降る限りー
 低くはっきりした声は何かに似ていた。後から有名アクション俳優がヤクザの親玉を演った時の声にだと思い出した。
『だが苦しみはある』
 それはエゴのため、人間が自然に生きられていないからだ。自業自得だと諭し、いや脅すように迫る。だが秀英は自分も完全ではないと認める。そして、
『わたしも今、その中にいる』
 会場が緊張と共に静まる気配が伝わった。
『娘を奪った犯人はまだわかっていない。だが、これだけははっきりしている。犯人は性根が不健康な人間だということだ』
 健康な人間は殺人などしない。
『だからわたしは娘のためにも、人々が、真に健康な生活をするためのこの運動を広め続ける!』
 会場の割れるような拍手。有人の胸に走る強い違和感、または嫌悪感。
 まつみはそんなことを父親に言ってほしかっただろうか。
(もし自分だったら……)
 泣いて。泣いて取り乱して何度も自分の名前を呼んでほしい。
 それから愛している、と伝えてほしい。
 生きていてもあの世に去っても、あなたは大事な息子だと、やさしく語りかけてほしい。そうしたら自分も向こうから、
(母さん、父さん。大好きだよ)
 って慰めるから。
 ……でも知っている。
 向こうには声も何も届かない。
 まつみの笑顔ももう「あちら」に行ってしまったー
 何をしていても思い出す。あの子が殺されてしまったこと。
(ぼくのせいなのか? また)
 そんなはずはない。なのに再び世界が暗くなる。


 以前刑事たちに訴え、遺体発見後の事情聴取でも繰り返したにも関わらず、どのマスコミも「人魚の涙」のことは全く報道しなかった。イルカなど、まして姿を見せもしなかった。
 代わりにー



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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