TOP > スポンサー広告 > title - ピンクのイルカが夢を見た 2-3TOP > ピンクのイルカが夢を見た > title - ピンクのイルカが夢を見た 2-3

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ピンクのイルカが夢を見た 2-3

 有人くん

 今の君の気持ちを考えるとかける言葉もない。
 ひど過ぎる、というほかはない。
 一つ、その少女の死に責任があると考えるようなことはやめなさい。
 それは完全に妄想だからね。
 犯人については、私はそういうことがわかる人間ではないから何とも言えない。早く真犯人が逮捕されることを祈るだけだ。
 何かあってもなくても、またメールください。

                              成雨太《なうた》

                ※


 寮間の行き来は夕食前までとの決まりだ。白雪寮から「早足で三分」の緑陰《りょくいん》寮の一階で、有人は慶に言った。
「今週末、『人魚』に潜入する」
 軽く目を見開き、こちらを見つめたままの慶に早口で言う。
「やっと『チェック』までこぎ着けた。レディたちが失敗した後だからオレがどうかはわからないけど、やるだけやってみるぜ」
 壁に背をつけ慶は暗い目で、だが思いの外力と意欲がこもった声で問いかけた。
「お前、まだやってくれるのか」
「ああ」
 何もわかってないではないか。まつみは何を望み、どこへ行こうと出奔したのか。イルカや「人魚の涙」は事件にどう関わるのか。
 何よりもなぜまつみは殺されたのか。いったい誰に?
 ーそれを思うだけで膝から崩れ落ちそうになる。
「……頑張れよ。週明けに報告くれないか。久しぶりに四人で集まろう」
 門限までもう時間もないと戻りかけた時、
「有ちゃん。ありがとう」
 真正面から見すえて出た言葉に笑ってうなずき、右手を上げてから外へ出た。
 すぐの陰にジャンパーを羽織った男が二人いた。
「こんにちは。お疲れさまです」
 頭を下げると、男の一人が困ったように顔を歪めてから、申し訳程度に度礼を返した。遺体発見直後に学校に来たから覚えている。彼らは刑事だった。


 まつみの遺体には、通常絞殺の際に見られる抵抗した跡が見当たらなかった。
 とはいえ殺害から発見までかなりの時間が経過し、遺体も傷んでいたため判断は難しいー警察はあくまで慎重だった。
 そうでないのはマスコミの方だ。
 顔見知りに殺されたと主張する週刊誌は「親しかった同級生K・K君(十八)」を犯人扱いで書き立てた。まつみの交際範囲は狭く、容疑者扱い出来る人間が限られていたのも不運だった。
 慶は登下校時も陰に陽にマスコミにつきまとわれ動きが取れなくなり、しばらく学校を休むかそれとも、と緊急避難で寮に入った(学校側は自宅待機を勧めたかったようだが、ここは慶が強硬に主張したと聞いている)
 警察も慶を完全に白だと認めてはいないことは刑事の存在から明らかだ。有人たち四人は遺体発見後繰り返し警察に呼ばれたが、慶の聴取は回数も時間も際立って多かった。学内にも慶を疑う声もある。
 だから先ほど慶は有人に礼を言ったのだ。

 水族館に行ってから遺体発見までの間に、梨々香が「人魚の涙」の入信チェックを受けた。彼女は独自に別ルートでのこの団体への接近を試みていたのだ。「人魚の涙」がらみの自己啓発セミナーに参加したのだという。
 入信チェックまでこぎ着けたものの、両手を金属シートの上に置いて質問に答える「嘘発見器」使用のテストに梨々香は通らなかった。信仰がない、何かやましい別の目的があると指摘され、逆ギレして(どうやら怒鳴り散らして)飛び出してきたらしい。
 遺体発見の前日、梨々香がそれを報告した時、
『実はあたしも駄目だったんだぁ~!』
 羽美子から思わぬ爆弾発言が飛び出した。
 講演会の後しばらくしてから、やっぱり調べたいと思い、連絡して七大洋の準会員になった。海岸清掃ボランティアなどに積極的に参加して瞬く間に入信チェックを受けたが、入信動機が虚偽だと詰め寄られ、泣いても駄目でそのままになったという。
 女子二人の隠密行動にあぜんとしながら、慶が情報は皆で共有すべきだと懇々と諭し、彼女らもそれぞれ納得して笑い合いながら校舎を出た。
 それが、あの前日だった。

「しぜんのちから 日本の底力!」
「家族を健康にするお母さんの料理 入門編」 
 テレビで覚えるほど見た松法夫妻の著書のカバー写真の数々が目に浮かぶ。三歳のまつみがレンゲ畑で姉と手をつないだ写真は、とりわけ忘れることが出来ない。
「健康法の教祖夫妻の娘の『不健康』な生活」
「松法式健康法令嬢の華麗なる男遍歴」
 毎夜のように都心の歓楽街のクラブで踊り明かし、薬を買っているのを見た証人もいる、という記事に至っては相手にする気にもなれなかった。まつみが門限を破ったのは今回が最初(で最後)だ。男関係の記事にも根拠などない。
 ただどの記事でも、まつみが「おとなしかった」ことだけは外していなかった。

 暗い、白雪寮の玄関。
 思い出す。あの子がいたこと。

「っ、つっっっっ……!」
「塩矢さん、どうかしたんですか」
 嗚咽をこらえて飛び込んだ三階の自室で、秋暮が驚いた声で言った。反対側のベットに彼の気配を感じながら、有人はシーツに顔を埋め何も抑えることが出来ない。猫のように曲げた背中はぶるぶると震え、シミの出来たシーツを握り込んで内部から吹き出した衝動に耐える。

『わたしには、秘密の夢がある』

 それはもうわからない―思った時。
 初めて有人の目から涙が流れ、激情が吹き出した。



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

小説へはこちらから
最新記事
最近の有無那
ボリウッド4のうち3つまでは見ました。あとは「きっとうまくいく」のみ。ついでにインド映画の御大アミダーブ・バッチャン、ハリウッド初出演の「華麗なるギャツビー」も見たいです…(7/9)
有象無象
連載メルマガ
現在連載中のメルマガはありません
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。