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ピンクのイルカが夢を見た 2-4

「えーっ! ホントに『人魚の涙』《マーメイド》に潜入出来たのぉ~? どーやってぇ~? 信じらんなぁい!」
 元から丸い目をもっとまん丸くして羽美子が叫び、有人は思わず回りの生徒たちをうかがう。放課後の談話室は寮生たちのたまり場だ。
 すっとんきょうに聞こえた羽美子の声も、ソファーに三々五々と座る中ちらりと見る人間が居たくらいでそれほど注目は引かなかったようだ。壁側に隠すように座らせた慶の存在も目立ってはいない。ほっと息を吐いた。
「嘘発見機は?! 塩矢っち、受けなかったのおっ?」
「いや、オレも機械にはかけられたよ。参ったぜ。たまたま運が良かったってとこかな。……なんとかごまかし通せた」
 羽美子は背をぴんと伸ばして絶句し、梨々果も長いまつげをぱちぱちするだけ。慶はどしりと座って目を伏せたまま。そんな友人たちに有人は一つだけの思い当たる理由を隠した。話せなかった。

 まつみの死が確認されるまで、四人はしばしばここで顔を合わせて話し込んだ。ずいぶん長いことそうしていたような気がしたが、実際はたった一ヶ月半ほど。
 あの時は、まだ彼女が生きていると思っていた。
 あの子が殺された。思うだけで膝が揺れ、足元が崩れて倒れ込みそうになる。
(負けるものか)
 ぼくには支えてくれる人たちがたくさんいる。母さんに父さん、遠くに居るばあちゃん。みんなの助けでやっとここまでたどり着いた。だから。
(倒れるもんか!)
 ぼくよりもずっとつらいはずなのに頑張っている友人たちがいる。羽美子に梨々香。好きだった人を失った上、いわれのない疑いをかけられている慶。
 だから自分も歩き続ける。歯を食いしばってもー
 嘘発見器の騙し方を白状しろだの言い合っていた有人たちがはっと口をつぐんだのは、舎監に案内された立輪がひょっこり現れたからだった。ごしごしとスーツの袖で額をこすって笑う。
「よかったよ。君たちみんなに会えて」


 夕食前の寮食堂に舎監が場所を用意する。
「松法さんの、前のゴールデンウイークでのパロリンガン行きについて聞きたいんだけど」
(?!)
「はあっ?!」
「ぱろりんがん?」
「……あいつは、ゴールデンウイークには岡山に帰ったんじゃ…」
 慶の声が小さくかすれる。
「先輩は、帰省するからって初日だけ出て、後は練習に参加しませんでした」
 その通り! と梨々香に大きくうなずいてから説明する。
「ご両親には部の練習で寮に残ると言って、実際にはパロリンガン諸島という所に渡航していたことがわかったんだ」
「って、どこ……?」
 羽美子のつぶやきが皆を代弁した。三人の視線が問うように梨々香に注がれる。
「それって……アジア?」
 彼女ですらこくんと首をかしげる。まだ「調べて」いないのだろう。
 そうなるね、と相変わらず上機嫌な大型犬のように立輪が地図を広げる。

 海に面した南アジアのその国に、日本人はビザなしで入国出来る。だが、自治区であるパロリンガン諸島の訪問には入境許可証が必要だ。事件を知った大使館関係者が、失踪翌々日からの日程でまつみの入境許可証《パーミット》が降りていることを通報してきたという。
「くわしいことはまだ現地警察に問い合わせ中だけど、五月初めにもパロリンガン諸島内の小さな島に滞在してたことがわかった。松法さんは四月半ばの週末、自宅に一泊した。これが最後になってしまったんだけど……その時に自分でパスポートを持ち出したものと見られているんだ。彼女は今回もパロリンガンに行くつもりで寮を出た可能性が強い」
 だが、何かがあった。
 彼女のパスポートは遺体と一緒に埋められていた。生徒手帳と同じで身元がわかりそうなところは全て破られて、だ。
「前に一緒に行ったのは誰なんですか! まさか一人で、ってことはないでしょう?」
 それはまだ教えられないが、別の刑事が調べているから安心して、と笑みを浮かべる。話が途切れたところで有人は尋ねた。
「ところで捜査は今どうなってるんですか? ちゃんと『人魚の涙』は調べてくれてるんですか?」
 唐突に、梨々香が普段以上の仏頂面で立ち上がる。
「山野は……あのインストラクターのアリバイは洗ったんですか。私たち、先輩が見つかる前からちゃんと警察の方に情報提供をしてます。だけど何の報道もされてません!」
「『表に出ない情報こそ、警察が重視している可能性がある』って父は言ってましたけど」
 さっととりなす。立輪は目を丸くした。
「ならオレたち、ここだけの話にしておきますから。教えてくれませんか」
「……松法さんの関係者には全て当たってるよ。水泳のインストラクターだった山野にもね。ただ、今のところ問題は出ていない。アリバイもある。山野は今仙台にいるんだ」
 困ったようにまばたきを繰り返して答える。
「それがどうしたんですか? 仙台からなんて新幹線使えばすぐでしょう」
 まつみの死亡推定期間は幅がある。アリバイがある人間の方がおかしい。
「なんだけどね。……実は山野は、職場でトラブルを起こしてるんだ」
 勤務先のスポーツクラブの受講生たちを強引に七大洋のイベントに誘って抗議を受け、そのことで連日連夜クラブ幹部との話し合いの場に引き出されていた。こちらまで往復出来るような時間的余裕はないという。
「それって!……」
 羽美子も目を丸くし、慶がはっと首を上げる。立輪は応えるようにうなずいた。
「SKジムでも何人も誘われてたよ。松法さんもおそらく勧誘されただろうね」



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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