TOP > スポンサー広告 > title - ピンクのイルカが夢を見た 2-5TOP > ピンクのイルカが夢を見た > title - ピンクのイルカが夢を見た 2-5

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ピンクのイルカが夢を見た 2-5

「プライバシーだから絶対に口外しないでほしいんだけど、山野はマーメイドティアーズの会員だよ。だけどそれだけだ。松法さんが会員だったかどうかは確認できなかったし…」
 まつみは友好団体の七大洋国際環境センターの催しに数回参加したが、人魚の涙の信者ではないー教団側の主張だ。
「信者の名簿とか、なかったんですか」
「い、いや、信教の自由っていうのがあってね。むやみに名簿とかを見せてもらうわけにはいかないんだよ……」
 タジタジの立輪に梨々香が駄目押しした。
「礼状取れなかったんですか? 無能ですね」
「楡崎ィ!」
「梨々香ちゃん!」
 後から説明を聞くに、建物の中に入って証拠品を警察が押収するためには「捜索令状」が必要で、明確な犯罪の証拠がないと発行されないのだという。
 嫌な顔一つせず丁寧にこう説明してくれた立輪は、見事なお人好しだと思う。
 そんな彼に黙って、に少しばかり後ろめたさを感じながら、次の日曜日。
 有人は人魚の涙の支部教会に向かった。


「こんにちはー! 塩矢ヘルパー、ヘルパーになったのね! おめでとう!」
 教えられた通り衿元にバッチを付けて支部教会に入った有人は、受付の女性の歓声に迎えられた。七大洋の催しで何度か顔を合わせたことがある女性だった。
 繁華街の雑居ビルの七階にあるここは、看板では七大洋の事務所となっている。
 「ヘルパー」というのは、人魚の涙の信者同士の呼び方だ。嘘発見機に通った後、その日のうちにバスで海岸に連れていかれ、白い布で囲われた中全裸で頭から海に漬って「ダイブ」という儀式をした。洗礼のようなもので、これをして初めて信者―教団では会員と称しているが―と認められるらしい。
 真新しい会員証を見せて、受付簿に会員番号と名前を書く。
「今日はヘルパーは?……」
「ダイブゲートセミナーで来たんですけど」
「奥のルームBです。今まだ前のセミナーをやってるんで、空くまでちょっと待っててくださいね」
 受付の奥は灰色のカーペット敷きの広間だった。まずはお祈りをしないとと、前方の祭壇らしき所に連れていかれる。

 金魚鉢ほどの大きさの丸いガラスに八分目まで水が入っている。中には玩具のような小さな半透明のピンクの丸と青い三角、黄色の四角が見える。イルカと人魚、人間の象徴だ、と教えられた。教団の本尊らしい。
「感情の左手をあなたのハートに、理性の右手は上向きにして床につける。そう、そのまま頭を床に付けて礼。これは心も頭脳も神と地球に捧げます、という意味があります」
 礼拝の後、女から解放され、部屋を軽く眺める。
 熱心に教本らしき本を読みふける女教師風、しゃべりながらチラシを折っている中年の男女……。眺め始めた有人は、すぐに人に掴まった。わからないことがあったら何でも聞いてと、通る人がみなにこやかに言う。受付でバッチの下に付けられた緑のリボンが新人の印らしい。
(ここ、やっぱり監視がうるさ過ぎる)
 受付でも、入信最初の新人は「ダイブゲートセミナー」で来ると決まっているのに―これを済ませないとほとんどの会のイベントには出席出来ない―こちらが用件を言うのを待った。すさまじく用心深い。
 ならばいっそ「何もかも物珍しくて仕方がない新人少年」を演じてしまうことにした。
イルカのポスターに寄ってきれいだと騒いでは、写真家の名前を教えてもらったり、赤いピンが刺された世界地図に顔を寄せ、マーメイドが活動している地域だとの得意気な説明を聞いたり。
「これはフィリピン……これどこだ? モルディブ?」
 たどる右手が震えた。意識して平静を装う。そのピンは立輪に教えられた「パロリンガン諸島」に立っているように見えた。
「……マーメイドじゃいつも新しいアクティビティがはじまってるから、どこだかすぐには答えられないなあ。学生さんなら、いずれ海外のアクティビティにも参加できるわよ」
「塩矢ヘルパー!」
 部屋が空いたと受付の女が来た。


 ダイブゲートセミナー、要は新入信者の教育を受けるのは全部で五名。大学生風が一人、三十代が二人でこれらは女性。あとは初老の恰幅のいい男性。講師は年齢不詳でぴしっとした女性だった。
「イルカ様や人魚様のように、自由に生きる。それがマーメイドティアーズメンバーの目的です」
 パーテーションで囲まれた四畳くらいのスペースの中、座布団敷きで低いデスクを囲み講義を聞く。 講師は一つ話すごとににこやかに受講生たちの顔を見回した。
「一度上がった陸に満足せず、再び海に戻る勇気。これこそが必要とされるのです。わたしたちもまた海に帰らなくてはなりません」
「人類を含む生命のふるさとであり、全ての人間の目的地でもある海を、世界を守る要員になったのです」
 貸し出しのテキスト―これすら渡さないのだ―を手によどみなく語る。
 簡単な教団の歴史と、最初にやった礼拝の復習、そして教団のシステムの説明がある。興味を持った入信前の者が「ドロウン」、ダイブして入信すると「ダイブ」。その後「レインボウ」「ヘブンズリング」と進むという。
「せっかくダイブしたのに、誰も地球と命を守る運動に誘わないような人は『さがれ』ません、というのはわかりますよね」
 へっ、という顔をした受講生たちに講師が胸をはる。
「上がることが良く下ることが価値が減る、というのは物質社会的な考え方です。わたしたちは海を基準にします。海の一番深い所は下にあります。ですからマーメイドでは、価値が増えることを「下がる」、逆を「上がる」と言うんです。例えば塩矢ヘルパーだったら、学校の成績が「下がる」ように頑張るといいわけですね」
 ちなみに「ヘルパー」と呼ばれるのは「ダイブ」ランクの者だけで、「レインボウ」なら「アクター」、「ヘブンズリング」なら「ドウワー」と呼ぶ。バッチで見分けられるという。講師は「アクター」だそうだ。
「……『アクター』。俳優、ですか」
「いいえ。天と地と海の意志を「行う《アクト》」出来る、という意味ですね。塩矢ヘルパーも、早くアクターと呼ばれることを目指しましょう!」
 いくつかの祈りの文句を暗唱させられ、教団イベントの説明を聞いてセミナーは終了となった。
「プレゼントです」
 クッキーの小さな包みにきらきらするリボン。だがその下に、見覚えのある茶色の紙があった。
(……!)
 蔦の這う文様の上、鏡写しに逆になった世界の大陸図。
 まつみの母が不審がったそれ。
「海から見た世界です。皆さんは今まで、地上から見る社会に縛られてきました。ですがダイブしたこれからは、ふるさとの海からへ、完全に視点を変換しなければなりません。この世界地図をすぐ見られるところにおいて折りにふれ心に留め、祈ってください」
 間違いない。まつみはマーメイドティアーズの信者だったのだ。
(この嘘吐きめ!)



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

小説へはこちらから
最新記事
最近の有無那
ボリウッド4のうち3つまでは見ました。あとは「きっとうまくいく」のみ。ついでにインド映画の御大アミダーブ・バッチャン、ハリウッド初出演の「華麗なるギャツビー」も見たいです…(7/9)
有象無象
連載メルマガ
現在連載中のメルマガはありません
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。