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ピンクのイルカが夢を見た 2-6

 なぜ隠す? まつみに何をした?!
(まさかお前たちが、まつみを……)
 先ほど会長が用事で支部に寄り、簡単な講話をしている。滅多にない機会なので出来る限り残ってほしい、と講師が言ったのももう少しで耳を素通りするところだった。
 広間に出て、左手を胸に右手を床に付ける礼をする。祭壇前に立っていた居軽・コーディリア・エマは有人たちに小さくうなずき話を続けた。三十人ほどの聴衆の後ろに有人たちも座り込む。
(これが教祖か)
 まつみも、この女にこうやって礼をしたことがあったのか。
 こいつはまつみを殺そうとー
「わたしたちは目覚めさせていただきました。けれど残念ながら多数派の企業や、その手先となっている国家や集団は、人々がなるだけわたしたちの真実を聞かないように妨害してきます。地球を損なう行動で目先の利益を得ているからです」
 柱みたいな女―
 ギリシャだかどこかの柱と一体になった女の彫刻のように揺るぐことなく立っている。ドレープの入った白いブラウスとロングスカートの服装からくる印象だけではなく、存在自体が重く動き難い雰囲気だ。
 梨々果に教えられたところによれば、コーディリアはヨーロッパ留学中にここの信者になり、瞬く間にナンバー二に昇りつめた。現在のようにマーメイドの規模が大きくなったのは、この教祖になってからだという。
(いい声してるな)
 適度な響きで自然に耳に入り、落ち着いて聞ける声は天性のものか、「教祖」になる前後で訓練したのか?
「あわれな金の亡者たちにわたしたちの世界が破壊される前に、人魚様やイルカ様のメッセージを伝えるのはわたしたちの義務です! 人魚様と違いどんな汚い人間の前にもその姿をお見せくださるイルカ様ですが、彼らはその貴い姿から学ぶこともなく、それどころか殺害しようとしているのです!」
 初めてコーディリアの声がうわずり、低い悲鳴が聴衆から上がった。
 殺害。されてしまったあの子―

 講話が終わるとコーディリアは入信三ヶ月までの会員と話がしたいと呼んだ。ダイブゲートセミナー受講者を含め六人が残る。
「あなたの夢は何ですか」
 短い話の後、彼女はいきなり先ほどの初老の男に尋ねた。口ごもりながらも、娘の幸せな結婚など答える男にコーディリアは次々と質問を加えていく。
「娘さんが生まれる前の、あなたの夢は何でしたか?」「それはかないましたか」「結婚する前の夢は?」「あなたはそれが夢だと言えると思いますか」
(なかなか手厳しいな)
 まつみの「秘密の夢」は何だったのか。

 大学生の女が質問攻めに半泣きになった後、コーディリアと、見上げた有人の目が合った。
 捉えたら動けなくなるような視線。
 有人もまた顔を伏せようとはしなかった。
(気をつけろ! ぼくは今マーメイドの信者だ。まだ何もわからないけど、ここを信じてるという設定だ)
 先の講師が書類を見ながらコーディリアに有人の名を教える。
「塩矢ヘルパー。あなたはどんな時に憎悪を感じますか」
「……憎悪、ですか」
 そういう感情は一番苦手だ。あったかい、ふわっとした人の気持ちこそが好きだ。まつみをあんな目に合わせた奴は憎い―
「振られた時とか。好きだった人が……去ってっちゃった時とかに、感じます」
 くすっとそばで若い女が笑う気配がした。
「でもねヘルパー? イルカ様と同じで人はみな自由なのよ。女の子は好きになったら塩矢ヘルパーのところに来て、そうでなくなったら自由に去って行く権利があるの」
 まつみが殺される自由なんて―
 目を離さないコーディリアに、有人は少しだけ間をおいてから口を開いた。
「そうですね。ただオレは、気に入った人のそばにいて、何かしてるのを見るのがとても好きで……」
 ノートを一心に取る時、クリーム色のシャツからのぞく白い首元。
 買い食いなど許さないふりをして、街のスタンドでスナックを買ってくれたばあちゃん。
 何でもないことなのに内緒話のように耳にささやいて、いつも自分の両肩にぽんと触れてから立ったあのひと。今も覚えている重さ。それから必ず右回りでくるり、と―
「だから、そういう人が行ってしまう時、オレはとても悲しいです。どうにも出来ないことだって、わかってるけれど」
「ではほかに、憎悪を感じた時は?」
「あなたは憎悪を馬鹿にしているのですか」「初めて憎しみを感じたのはいつ何の時ですか」「今でもそれを憎いと思いますか」「友だちを憎いと思ったことはありますか」
「家族を憎いと思ったことは?」
 コーディリアが矢継ぎ早に問いを繰り出し、有人は慎重にかつ正直に答えていった。
「…母さん。母は、生まれ故郷が嫌いなのに、なんで帰って来たんだろうって。どこでだって生きていける人なのに。オレのせいになんかしないでほしい―っ!?」
 答えてから驚いた。自分の中にそんな気持ちがあったなんて、初めて気付いた。どんな時でも自分を守ってくれてきた母なのに―
「塩矢ヘルパー! こちらを見なさい」
 コーディリアは、祭壇に飾られているのと同じ、ただし両手に入るほどの小さなガラスボウルを有人の目の前に差し出した。我に返ってはっとそれに見入る。
「もういいでしょう。次……」

 受付の女に笑顔で挨拶をしながら支部を出ようとして、横のチラシに目が行く。七大洋主催海岸清掃スタッフ募集の横の、地味な白黒の印刷にぎょっとして……平然と手を延ばした。



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テーマ : ミステリ
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