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ピンクのイルカが夢を見た 3-2

 中国人商人の荷物の積み上げが終わると、船は静かにンマニ島を離れて行った。
 長い桟橋の先端で、海を背に三人の男は島を見つめた。
 紺碧に透いた海。ラグーンの浅い色の向こうの白色の砂浜。シャツの背に刺さるほどの強い日差しの下、海鳥の声が打ち寄せる波の音の間に響く。

(卒業旅行で行ったハワイよりもずっときれいだ)
 ここまでは、言葉の問題もあって高校生二人におんぶにだっこだったけれど、
(ボクの仕事はこれからだ!)
 正しいことを守ること。悲しい思いをしている人を助けるのが立輪恵壱《けいいち》の仕事だ。
 この少女の事件に関わってから、立輪は「自分のモノサシ」を失っては駄目だと改めて思うようになった。
 社会人になってから警察という組織に自分を合わせようと苦闘してきた。その間にいつの間にか感情、それも肝心な苦しんでいる人への思いが麻痺してしまった気がして、立輪はがく然とした。
 自分がするべきことからブレないための、大事な「自分のモノサシ」
 出来ることがあり、支えてくれる存在もあるのだから恐がらずに進みたい。
 ー立輪は明るい目で緑の島を見つめた。


 青い海に浮かぶ純白と緑の島の全景を有人は目に焼き付けた。寄せては返す波。遠く飛ぶ鳥の声。一言で言うなら「楽園」
 木の桟橋を踏むスニーカーの足が震える。
 あの子の死のニュースを聞いた時から、自分を離さなくなった恐怖。
(まつみ。君はここでどんな風に過ごしたんだ)
 短い人生の最後近くに、少しでも、楽園らしくきらきらした日々があったことをー


 絵に描いてそのまま立体化したような「天国」
(信じるものか。神様なんていない)
 いたらまつみを助けてくれるはずだった。あるべきでない運命から。
 四ヶ月前、彼女が見た風景を今自分が見ている。エメラルドグリーンの海に浮かぶ長い桟橋を彼女と同じように歩き島に着く。付近に集まっていた住民たちが、聞いたこともない言葉で慶たちに話しかける。笑顔と好奇心いっぱいの濃い色の顔の山がうっとうしい。迎えはどこにいるのだろうか。島には宿泊施設などなく、客人は慣例によって酋長の家に泊められる。酋長の持つバンガローがあてがわれるだろうと旅行社の担当者が言っていた。
「Chinese!」
 小柄な男が立輪の腕を取った。職業柄かとっさに払った立輪に、男は続けてチャイニーズ、カムなど続ける。回りの住民たちも彼の方に慶たちを押し出そうとする。どうやらこの男が酋長の迎えらしい。
 先に立って歩き出した男の何度目かの「チャイニーズ」に慶は、
「ノー。ジャパニーズ!」
 と訂正を入れた。男はソーリー、カムなど悪びれない態度で繰り返し、木々の間の小道を入って行く。
「立輪さん、この人の英語力は多分立輪さんと同じくらいですよ。よく聞けばわかるでしょう?」
「外国人の発音なんてわからないよ」
 有人に言われても立輪は困り顔のままだ。
 有人の英会話はネイティブなみだった。英語の補習に出ていたのではと問いただすと、文法が苦手だからと言う。立輪が問題外だったこともあって、有人は自然に今回の通訳になった。
(こいつ、よくここまで来たよね)
 有人の親は、二人分の旅費までは出せないから泣かないで一人で行って来いとあっさり送り出したというが、そういうものだろうか。英語力がどうだろうと、自分の親のように猛反対する方が普通ではないのか。
 その前も、警察にマークされて動けなかった自分を尻目に、彼は人魚の涙への潜入まではたして……もう助けられないとわかってからも、なんでそこまで―
 心の隙間から運命への憎悪がまた吹き出す。なぜまつみのそばにいられなかった―

「壁、ないね」
 案内された草葺きの小屋に立って、立輪がつぶやいた。高床の小屋の広さはそれなりだったが、それぞれの面の柱の間一ヶ所だけに板が張ってあるだけ。
「貴重品はそれぞれしっかり身につけてね。特にパスポートと現金」
 警察官らしく注意する。
 なだらかな丘の木々の向こうに白い浜辺が見え、響き上がる波の音が鼓膜に届く。
「さっき言ってた『リチャー』って何かな?」
「a ritual《リチュアル》。儀式、だと思う。昔からの風習で外来者にはまず酋長の歓迎の儀式がって、旅行社の人が言ってたんだろ?」
 有人が慶に答える。
 突然、薄暗い木陰に白い女の顔が浮かんだ。
 ぎょっとした時、
「アロー」
 五角形のベースのような顔から、続いてフランス語らしき言葉。反応しなかった男たちにようやく彼女は、
「Do you speak English?」
 と不愉快そうに問いかけた。




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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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