TOP > スポンサー広告 > title - ピンクのイルカが夢を見た 3-3TOP > ピンクのイルカが夢を見た > title - ピンクのイルカが夢を見た 3-3

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ピンクのイルカが夢を見た 3-3

「ジュ…ジュデび……」
「シモーヌでいいわよ」
 シモーヌ・ジュデュビィエーヌはボランティアのフランス人歯科医だった。有人は真っ先にマーメイドの関係者かと尋ねたが知らないと言う。ベルギーの伝統あるボランティア団体のメンバーだと誇らしげに―つまり詰まらない所などと一緒にしないでと―語った。
「チャイニーズが来てるって聞いたから」
「ジャパニーズ!」
 慶が訂正。
「お前もちゃんと直してくれよ」
 有人に文句を付ける。
「仕方ねえだろ。あっちからはわからねえんだから。フランス人とドイツ人の区別がつかないのと同じ。それにこっちじゃ日本人なんて滅多に見ねえんだろ」
「残念だったわ。今はちょっと島を出てるけど、夫は中国人なの。良い話し相手になるかと思って……」
 有人が通訳して話を進めていく。
「で、何しに来たの?」
 さっと慶の顔を見る。これは彼に言わせてやりかった。
「My girlfriend died last June.She came here before it.I want to see here.」
 ガールフレンドが六月に死ぬ前に来たここを見てみたかった―と、シモーヌは大きな同情の表情を浮かべて慶の肩を抱いた。
「あなたはその子に会ってるんじゃないですか? ミナミ・マツノリって日本の高校生で、五月初めにこの島に来てたんです!」
「あたしはその頃この島にいなかったから」
 彼女は島々を定期的に回って住民の歯の診察をしていて、当時は諸島内の別の島にいたという。
「けど噂は聞いたわ。『The Goddess』の」
 と先ほどの港の男が呼びに来た。


 儀式は簡単に終わった。小屋からも見える平屋の酋長宅の広い部屋―やはり壁はなかった―に、村人たちと輪になって座る。全部で三十人ほどだろうか。横についた男が仕草で示すままに、礼をして酋長に花を贈り、ボールのような器で出された白くどろどろした液体を飲む。
 上座に座った酋長は、刺繍の入った簡単な上着に白い褌状の衣服姿。何か言って有人たちの贈り物を受け入れ、杖を回すと、笑顔一つ見せずに広間を去った。

「儀式は終わりよ。後は宴会。食べていきなさいって」
 シモーヌが寄って来る。どちらにしろ滞在中の食事は酋長宅の世話になることになっている。
「あの人が酋長さんですか」
「実権はないわ。だから余計不機嫌なの」
 外国人が来るとね、と冷たく見える表情でシモーヌが言った。伝統的支配者だった彼は、外国人がその世界を壊したと思っているらしい。長女の婿―女系制での後継者だ―はフランス留学中で跡を継がないと明言している。酋長は彼の代で終わりだ。
 人々は大きな葉の上に次々と食事を並べ、もっと食べろと手真似で勧める。飲み物が切れないようそばで見守る少女や、やはり大きな葉のうちわで延々と風を送り続ける中学生くらいの少年。
(まつみ。君も、こんな風に歓迎された?)
 控えめな笑顔を想像して―
 客人への暖かい気づかいに有人は少し酔い心地になった。先ほどの白い液体に多少アルコールも入っていたらしい。
 言葉は、通じなかった。住民の多くは現地語しか話せない。若い世代は本土の標準語がしゃべれるそうだが、そちらは有人たちがわからない。そして彼らにとって外国語とはフランス語だった。確かに一時フランスの植民地だったと梨々果が言っていた気がする。

「有ちゃん、それだけ英語しゃべれるんならフランス語もなんとかならない? おんなじようなもんだろう? 海を隔ててあっちとこっちなんだし」
「だったらお前、海を隔てた向こうでおんなじ文字を使ってる中国語がしゃべれるか?」
 港へ迎えに来た男は、本土の観光地に出稼ぎに言っていたため『一番』英語が上手いらしい。いやもう一人。
「酋長ケマイニの娘婿が、夏休みで五日後に島に戻って来る。彼はまあ、英語もしゃべれるわ」
 それなら一日だけ、滞在日に重なる。
 島の言葉もある程度話せるシモーヌに通訳を申し入れたが、一蹴された。
「あたしはここにいる間に、一人でも多く診なきゃならないの」
 歯が駄目になると食事も不自由になりあっという間に健康を害する。伝統にない「甘いもの」のせいで一時住民がどれだけ短命になったか―シモーヌは情熱的に語った。買い出しで夫が留守の今有人たちに付き合っている暇はない。それでも例の英語の『上手い』男、トトパルに「The Goddess」が春に回った所を案内するようには頼んでくれた。
「さっきから何度も Goddessって出てくるけど、何だっけ? 船の中でも聞いたけど」
 慶の声に不機嫌さが混じっている。慌てて答えた。
「女神。「 a God」の女性形」
 白く丸みを帯びた首元を思い出して―
 聞いた慶も、打たれたように思いを馳せている。立輪も何か考え込んでいた。


 眠れない。両脇からも寝息が聞こえないから、有人も立輪も同じなのだろう。単調に繰り返す波の音もかえって耳につく。
『まずい時に来たわね』
 小屋まで戻ってからシモーヌが言った。
『この島は今揺れているの。一触即発でどうなるかわからない。「工場」のせいで』
 有人たちが寄った島に予定されている新工場について、賛成派はンマニ島の人間も雇うという話に期待し、反対派は漁場への影響を恐れた。補助金や補償金への思惑も複雑に絡み、島民たちは今日明日とそれぞれに寝返りながら争い合っているという。
 こんな美しいのどかな島でも争いがあるのかと慶は目を丸くした。
 衝撃はその後だった。
『電力の増強の話も聞いてないし、あのデコボコ敷地じゃ「作業場」程度のものしか出来ないと思うわ。今のアレも「工場」って自称してるくらいだから。で、その騒ぎの中で「女神」が連れて来られたんだそうよ』



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

小説へはこちらから
最新記事
最近の有無那
ボリウッド4のうち3つまでは見ました。あとは「きっとうまくいく」のみ。ついでにインド映画の御大アミダーブ・バッチャン、ハリウッド初出演の「華麗なるギャツビー」も見たいです…(7/9)
有象無象
連載メルマガ
現在連載中のメルマガはありません
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。