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ピンクのイルカが夢を見た 3-7

 『有人が酋長に拉致された!』
 かなり物騒な話になっていたらしい。立輪らに呼ばれ酋長宅に飛び込んだシモーヌは、奥の間でちんまり向かい合っている二人を発見することとなった。ケマイニが彼女を見てふっと顔をゆるめる。
(この人、シモーヌのことは嫌いじゃないんだ)
 彼女が入って聞いた話は、通訳なしで有人が感じていたこととほぼ同じだった。
 朝・昼食前の一時間と夕食前の半時、それに夕食後の二時間を歌の練習に当てる。
「必ず覚えて帰るように」
 返す言葉がなかった。


 夕食後の「レッスン」を終えてやっとシモーヌの所に転げこむ。診療具の洗浄を手伝いながら有人は大げさに愚痴った。
「オレ、歌詞覚えるのとかは得意なんですよ。だけど考えたら、意味のわからない言葉なんて覚えたこと一度もなかった~!」
「馬鹿じゃん! どーしてそういうことに気がつかないわけ? 有ちゃんってもしかして、いつもそうやって余計なこと口にしては損してるタイプ?」
「そんなしょっちゅうはねえけど……そうかも……」
 シモーヌがおかしそうに顎を上げる。
「よかったわね。全部覚えない限りこの島を出られないわよ」
「心配するなって! 覚えられなかったらお前を置いて立輪さんと二人で帰るから」
「そんなー!」
「大丈夫だよ。ボクはちゃんと二人とも連れて日本に帰るからね」
「じゃ、有ちゃんが暗記出来なかったら立輪さんも道づれ! 決定!」
 それは困る、ボクにも仕事が、などおろおろ言う立輪に吹き出しながら有人は手を動かした。
 ケマイニは冒頭から一節ずつ有人に覚えさせ、つなげて徐々に長く唱わせることで歌を教えた。初回のレッスンではただ歌を繰り返させるだけだったが、さすがに覚えが悪いと悟ったのか、食後は身振り手振りを入れて少しでも意味を伝えようとしてきた。
(高い山のふもと、川が流れてて、男と女がいて平和に暮らしてた……神さま感謝します、か)
 ポケットに隠したメモを見る。有人はレッスン直後に密かにメモを作り暗唱対策にしていた。
「内緒ですよ、シモーヌ」
 彼女はまたくすりと笑ってうなずく。
(まつみ。君は少なくとも、歌覚える苦労なんてしなかったよな……)
 ちりばめられたような星空を見ながら肩を落とした。

                     ※

 「わたしなんか」「僕なんか」
 と、卑下する人間は嫌いだ。
 「そんなことない」と言ってもらいたいだけだろう。嫌らしい。慶に言わせればプライドは、努力をし、実力を付けて自分の中に育てるもの。少なくとも男ならそれが当たり前だ。だが今回は、まつみがー
 自分はまつみに選ばれなかった。
 あんな変な宗教なんかに負けた。
(僕なんかー) 
「……ああいう仕事持ってたら、仕方なかったんじゃないかな。お父さんもお母さんも、大きな組織のトップだろ?」
 有人と二人、波に足を洗わせながら砂浜に座っていた。
 慶もまつみの両親の言動について完全には納得出来ていない。けれど有人には反論したくなった。
「じゃあもしお前のとこだったら? お前のおやじさんもトップだろ。……オレん家じゃそういうの、わかんねえから」
 と有人が予想外のことを聞いてきた。もし慶が行方不明になったら?
「……うちは経営者だから。部下に仕事任せて、父親も母親も飛んでくると思う。けどまつみのとことは規模が違うよ」
 有人が気にしているのは、かつてまつみが言った言葉。
 『わたしは親に捨てられたの』
「そんなこと言ったのは一回だけだよ。むしろ、お父さんやお母さんのこと尊敬してた」

『お父さんはね、そんなの古くさいって思われてた時から、伝統的な日本の食事は素晴らしいって主張してきたんだよ』
 彼女にしては珍しかった、誇らし気な顔。
 
「……コンプレックスはあったみたいだ」
うなずく有人。顔はまだ納得していない。腹に息を落して気持ちを抑える。

『お姉ちゃんは頭良いから』
 姉は薬剤師に、ならまつみは医者になればいいと父に言われた。
(間もなく成績という現実を悟って言われなくなったそうだが)

『お母さん、人が来ておもてなしするのが大好きなんだって』
 楽しくて仕方なくて、どんどん突き詰めていって料理研究家になった。
『わたしは、たくさん人が来たり、しゃべったりするの苦手かな』

 まつみは「わたし『なんか』」とは言わなかった。
 「わたしは」と淡々と話した。だから嫌だと思わなかったのか。単なるアバタもえくぼか。

『わたし、クラスに友だちいないの。羽美ちゃんと離れてから駄目だね』
『そうなのか? でも、休み時間とか結構しゃべってるじゃん。今日だって、あの、ほら長い髪の子と』
 本当は、彼女がクラスメートと話しているところはほとんど見ない。
『……しゃべってくれる人はいるけど』
『別にまつみが頼み込んでしゃべってもらってるわけじゃないんだろ? だったらその子たちもまつみとしゃべりたいんじゃん? ほら! お前だって人気者だろ』
『そうかな?』
 首を傾げる。慶は組んでいた足を戻すと、身をかがめてまつみと視線を合わせた。
『だいたいさ……。お前、誰と付き合ってるんだ?』
 正面から目を覗き込む。彼女の表情はゆっくりと、だが確実に喜びの方向に変わり、やがて遠慮がちな笑みで頬と瞳が輝く。動揺したのは自分の方だ。
『……それ、自分で言うの止めた方がいい。さすがに恥ずかしいと思うよ、慶』
『そうくるか!』
ーまつみ。

 僕は、お前にふさわしい男のはずだ。
 それを証明して見せる。

 たとえお前がこの世にいなくてもー 



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