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ピンクのイルカが夢を見た 3-8

 紺碧の大海に浮かぶ緑の小島。服のまま軽く泳ぐだけで青や黄色の南国の魚や橙の珊瑚、白い砂粒までが透いた水に手に取るように見える。
 美しい楽園。
 だが、ここでのまつみも、ほとんど笑わなかったという。
『わたしは親に捨てられた』
 それがどういう意味かはわからないけれど、家で幸せだと思えなくて、遠くここまで来ても楽しくない。結局まつみに楽しい所はあったのだろうか。
(慶といる時、か……)
 だったら何故、その彼をも捨てるように寮を出たのか―

 五日目の昼。
 聞くだけのことは聞いてしまった有人と慶は、またも時間を持て余した。二人は時に浜で泳いだ。島の人が漁に出るのに連れて行ってもらい、仕事を手伝ったこともあった。もちろんその間に情報交換をし、まつみのことについて知恵を絞り合った。慶にはまつみの家族について聞いたが、彼はあまり問題意識を持っていないようだった。
 逆に慶からは潜入した人魚の涙のことを聞かれた。入信三ヶ月までは個人指導をする「ナビゲーター」が付く。たいていは年の近い同性なのに、有人は都合とかで中年の女性が担当となった。それも、ダイブゲートセミナー講師の「アクター」だ。今は、
・家族について嫌いなところ、百点
・人魚様の好きなところ 百点
 を課題として課せられている。どちらも苦労して紙を埋めて提出したが、難癖に近い理由で再提出を求められた。バレバレの「洗脳」工作という点で慶と意見が一致した。どうしてあんなものに支部にたくさんたむろしている大人が引っかかるのか、わからない。
 まつみが何を求めて人魚の涙に入ったかということも。

 立輪は資料作りを続けている。島の概略図を作り、集落を書き込み、まつみのことで証言をしてくれた人の家に改めて行って名前を聞き、いいと言えば顔写真も撮る。
「どこの誰、っていうことがはっきりしていないと、警察の証拠にはならないんだよ」
 始めトトパルと二人で動くことに捨て犬のような顔をした立輪だが、すぐ普通に島を歩き回るようになった。誰にしろ、ここではほとんど言葉は通じないのだ。
 夜になるとその立輪も慶も広場の輪に混ざって声を合わせ、見様見まねで踊りもした。有人はケマイニ宅でレッスン。その後三人でシモーヌの家で労働奉仕。人々の顔を覚え、のんびりとした暮らしに慣れるとここは楽しかった。
 それがまた、罪悪感となった。
 南の海に浮かぶ美しい楽園。この頃はまだそう思っていたからー

 「工場」のことは、あまり口に出さない方がいいとすぐにわかった。人々の顔はさっと強ばり、心配そうに回りをうかがうのだ。
 それでも割合口が軽かったのは、明らかな賛成派たちだった。
「工場が出来上がってごらんよ。俺たちゃ毎月きちんと給料がもらえるんだ! もっとコレが買えるじゃねえか」
 板間の真ん中に鎮座したデッキの横、籠に積まれたビデオを指す。
「……ジャッキー・チェンか」
 男は上機嫌でビデオを見せつけた。
「おまえらの国の映画だろ? アチョ~!」
「だから僕らはジャパニーズ」
「そっちはブルース・リーだって」
 ぼやく慶と有人。
「……お金いっぱい貰って、ジャッキーのビデオを買う、か……」
 草の小道を踏んで元の集落へ足を戻す。鼻歌を歌うシモーヌの背を眺めながら、なんとも言えない思いでつぶやいた。
「お前、よくちらっと見ただけでジャッキー・チェンだなんてわかるね。そっち系の映画好きなの? カンフー映画かなんか見た後さ、ジャッキー気分で映画館を出て肩で風切って歩いて、やーさんに絡まれてる女の子見かけたら『アチョー』って構えてボコボコにされたりする? 危ないなあ」
「だから『アチョ~』はブルース・リーだ!」
 と立輪が息を弾ませて来た。
「船が来たよ!」


 桟橋前では、真っ先に降りた中国人商人がよろず屋への荷卸しをやっていた。続いて数人が桟橋からこちらへ歩いてくる。有人たちも島の人々に混じって桟橋のたもとで目を凝らした。
 高く手を挙げてシモーヌが桟橋に駆け寄る。広場の丸椅子に座っていたケマイニの妻や娘たちが腰をあげて歩き出す。
 花柄のシャツの上に薄紫のジャケット。服とは吊り合わない落ち着いた目元。桟橋から浜に降り立った若い男にケマイニの妻が手を差し伸べる。有人たちはその彼が守るようにして降りてきた少女にぽかん! と目を見開いた。
「来ちゃいました」
 楡崎梨々果が、無表情で彼らを見上げていた。
「き、来ちゃったって……」
 と今度は梨々果がくるっと目を丸くした。
「立輪さん? なんでいるんです?」
 立輪はただ口をぱくぱく開け閉めするだけだった。



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テーマ : ミステリ
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