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ピンクのイルカが夢を見た 3-9

「いいかい? 今回はたまたま無事だったかもしれないけれど、女の子はとりわけ狙われやすいんだ。事情も何も知らない君が一人でたどり着けた方が奇跡に近いんだよ! まして海外は初めてだって?!……」
 うちでケンカしたー梨々果がンマニ島に来た理由。 
 半袖だが、南の島向きではない大きな衿にきちんとベルトをしめたワンピース姿。さんざん説教をした立輪は、横二人の冷たい視線に気付いた途端、慌てた。
「や、その……ボクだって、途中で塩矢君たちに合わなかったら、たどり着けたかどうかわからなかったんだから」
「梨々果ちゃん。どっちにしろ、僕たちは明日昼前の船で帰る予定なんだけど……」
「知ってます」
 連絡船は南下して島々を回り、明日またこの島に寄る。今度は主島パロリンガンを目指して北上するのだ。対して梨々果は一日しかいられないのは承知、とちょっと見下すような目で言った。
『一晩ならうちに来ればいいでしょ。夫は外に泊まってもらうから』
 シモーヌの言葉通りに決まり、間もなく「儀式」が始まった。


 広間に集まった島民は有人たちの時よりも多かった。
「女の子だとこうか」
 慶と肩をすくめる。日本人にしては濃い色の肌と窪んだ目も島の人々に親しみを与えたようだ。今回もトトパルが横について手まねで次第を教えるが、経験者の三人も横から口を出し、
「同時にしゃべられてもうるさくてわかりません! 一人だけにしてください!」
 三人まとめてしゅんとした。
 儀式が終わると、ケマイニは梨々果の前に進み一言、二言話しかけた。首を傾げた梨々果にふっと顔を和らげてから、前と同様に姿を消す。

 昼食を兼ねた宴会が始まった。笑顔で寄ってくる島民たちに半分困ったような顔をしつつ、梨々果は今までの成果を尋ねてきた。
「成果ってほどじゃないけど……」
 主に有人が説明する。梨々果は目を落として考え込んだ。
「その『工場』って何してるんです? なんでまつみ先輩を利用しようなんて……」
「それはオレたちも聞きたい」
 お手上げのポーズを作る。
「梨々香ちゃんはラザファスタンって知ってる?」
 慶の問いに首を傾げるが、カフカスだと言うとうなずく。
「カフカス山脈。カスピ海と黒海に挟まれてて、昔、ソ連だったあたりの南の方です」
「……すごいじゃん! ホントに知ってんだ」
 騒いだ慶は、
「私は受験組ですから」
 冷たく切られて絶句する。とりなすように有人が新情報を伝えた。
「昨日の夜シモーヌさんにノーパソ使わせてもらってメールをチェックしたんだ。日本語メールは読めなかったけど、さすが父さんは考えてて、英語でメールくれてた」
 「工場」を設立した会社がわかった。帰国次第教えるー
「それ本当かい?」
 立輪が首を突っ込む。
「ええ。父さんが言うならホントですよ」
 立輪は首に手をあて、難しい顔を作ってうなる。梨々果がくすりと笑った。それから真顔に戻って尋ねる。
「塩矢先輩、お父様にこの調べ物のこととか、話してるんですか」
 少し責めるような口調。
「ああ。父さんはプロだから意見も聞きたいしな」
「プロって、探偵?」
「いや。コンサルタントって称して、依頼を受けて調査報告を出す仕事をしてる。なんだけど、儲からない仕事ばっかりやっててよ……」
「おかしいですね。プロなのに儲からない仕事ばっかりやってるなんて」
 梨々果がまたくすっと笑った。彼女にしては珍しい。
 と梨々果は突然立輪の方を向く。
「立輪さん、休暇取って来たって……?」
「捜査員を出せって上に言っても駄目で。仕方ないからプライベートでね」
 警官だということは内緒、とささやく。
「よく出られましたね。私、警察官って、新婚旅行以外じゃ海外にはまず遊びに行けないって聞きましたけど」
「…だから帰ったら説教が恐いよ」
「有ちゃん、シモーヌさんのダンナさんってやたら愛想悪いよ。気付いてた?」
 慶が顔を近づけてきた。
「いや…日本人ほど愛想いいのなんてそういねえんだから、期待しない方がいいんじゃねえ?」
 チー・シャオヤンというその男はシモーヌの向こうで黙々と食事をしている。有人たちに近づこうともしない。

 梨々果は今度はケマイニの娘婿のパウヤと話している。ヴァイオリン弾けるの、そう、といった話題だ。パウヤは先ほどの派手さとは変わりショートパンツの島らしい服に着替えている。梨々果に配慮しゆっくりはっきりとした英語で話しかけているところなど、なかなかの好青年ぶりだ。
「さっきニーハオ! って挨拶したのに、何も言わずに行っちゃったんだ。やな奴!」
「発音が悪かったんじゃねえの」
「じゃあ何って言えばいいんだよ」
「Was she killed?」(彼女は殺されたの?)
 パウヤが尋ね、梨々果が伝えるようにゆっくりと答えた。
「Yes,she was.Minami Matsunori was killed last June.」
 松法みな美は六月に殺された―

 最初に気付いたのはさすが刑事の立輪だった。さっと席を立つと、失礼しますと日本語で言ってパウヤとの間に腕を入れて梨々果を引き寄せた。
 梨々果は広間を見回し、頬を強ばらせた。その表情を見て有人も顔を上げーぎょっとした。
「KILL?」
「KILL!」
 キル・キル・キル……こだまのように響いてきた。笑顔は消え、大きな感情を隠した当惑が人々の顔に浮かんでいる。
「そろそろ戻ろう」
 立輪の声の緊張。腰を浮かした慶も場の異常な変化に硬直した。シモーヌが眉を寄せたままシャオヤンに何かささやく。
 立輪が梨々果をかばいさっと外に向かう。続いて慶。有人は帰るとパウヤに告げると後を追おうとした。シモーヌがシャオヤンの肩に手をかけてこちらを見る。シャオヤンは青い上着の上から確かめるように軽く腰の横を撫で……
(銃だ!)
 彼はあの下に拳銃を隠している!
 とたんに、横隔膜からぐんと肺が突き上げられた。息が苦しい。小さな震えが指先から肌に、内側へと伝わり、吸っても吸っても空気が入る気がしない。
(駄目だ。ちゃんと体使って、大きく深呼吸……)



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テーマ : ミステリ
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