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ピンクのイルカが夢を見た 3-12

 島に三台しかないという車の一つ。診療所前にあったものだ。
 浜に斜めに乗り込んで来て停まると、シャオヤンが飛び出してきた。
「Get on!」(乗れ!)
 彼は立輪の負傷に気付くと、駆け寄って肩を貸す。慶が男から梨々果を奪還して車へ引きずる。つい先ほどの捨てゼリフに躊躇したのは一瞬、有人も梨々果の背を押し車に急いだ。
「どけっ!」
 シャオヤンの吠え声に、島の男たちもびくりと足を止める。彼は有人たちと同じには扱えないらしい。
 後部に三人が乗り、有人は助手席に飛び乗った。冷静な表情に戻ったシャオヤンと有人の目が一瞬絡む。落ち着いたハンドルさばきで彼はバンを発車させた。
「シモーヌに救出を頼まれた」
 ぽつりと一言。有人はうなずいた。
 立輪は慶に手を貸してもらい傷の手当てをしている。梨々果は服を直しながらぼうぜんと外に目をやる。
「……Killは、そんなにいけなかったんですか。ミスター・チー」
「わからない。この島の習俗のことは知らない」
 目を合わさないまま二人は続ける。林の中の道に入った時、またぬっと島民グループが現れ、車に投石し始めた。
「伏せて!」
 立輪の声に、シャオヤン以外が顔を伏せる。運転するシャオヤンは左右に微妙に車を揺らしながらも構わず前へ向かう。元からガラスの入っていなかった海側の後部窓から石が飛び込んだ。二、三発、フロントガラスに命中し、有人はぎゅっと目をつぶる。
「うっ!」
(駄目だ)
 膝に散ったガラスの破片で小さく血が滲んだ。今のグループはまいたが、これで主集落までたどり付けるものか。
(……ケマイニにさえ会えれば)
 シャオヤンが振り返って叫んだ。
「運転出来るかって!」
 立輪に訳す。
「足は……右をやられてるからクラッチ操作には自信がないけど、対向車もないからなんとかなると思う。だけどボク、今回国際免許証作ってきてないんだよ。無免許じゃ……」
「つまらねえこと言うな!」
 一喝した。出来るとシャオヤンに伝える。
「運転代わってって」
 横目で見る。シャオヤンの上着の下。あれはある。
「ボクは警察官なんだよ! まして他の国の法律を……」
「黙れ! そういう心配は助かってからしろ! あいつら殺す気ですよ」
「そんな」
「私、読んだことあります。日本でも中世には石で殺し合ったって」
 梨々果のほうがよほど理解力が高い。有人は冷たく後ろを見る。
「あなたがやらなきゃ、オレが運転します」
「塩矢君っ!!」
「運転なんてしたことねえけど。ハンドルとブレーキはわかりますから」
 また一グループをやり過ごしたところで急停車、観念した立輪とシャオヤンが席を替わる。予想通りシャオヤンは上着の裾から拳銃を取りだした。梨々果が声にならぬ息を飲む。
「それは!」
「許可証は持ってるそうです。シモーヌから聞きました」
 目を剥く立輪に言い捨てる。 
 三人が林から姿を現した時、シャオヤンは見せつけるように銃をかかげ、窓の外に狙いをつけた。
「!」
 男たちは目をまん丸くし林の中に飛んで逆戻りする。
 霧のような冷たさが自分の中に流れ込んでくる。ふらふらと揺れる銃の手元を見ながら有人は声をかけた。
「ミスター・チー。貸してください」
「What?!」
「あなたの構えじゃ素人丸出しです。おどしになるのは最初だけですよ」
「しかし……」
「銃は地面と平行に構えるものです。その銃、最後に分解掃除したのはいつですか?」
 前方に風ではない動きがある。次の待ち伏せだ。
「寄越せっ!」
 戸惑いとためらいで視線が二回、回る。やっと伸びてきた腕から拳銃をひったくると、もう石が飛んできた。
「安全装置解除」
 親指で触れる。
「しおやくんっ……」
「Drive!」
 運転してろ、と立輪に言い捨てる。
「大丈夫。撃ったら終わりってのはわかってるから」
 大きく助手席から身を乗り出して狙いをつける。
 流れる風に髪がになびく。右腕を窓枠で固定し、前方に、それから横に、ゆっくりと銃口を動かす。男たちは石や槍を片手に持ったまま、車を見送る。
 素早く身を翻し、立輪の背中ごしに反対側に狙いを付ける。
 がしりと銃を握り混んだ両手。無駄一つない腕の動き。
 車内では口を開くものもいない。
(撃ったら最後だ)
 同様の待ち伏せをもう一回銃で脅しつけると酋長宅前の広場に車がすべりこんだ。
 助手席のドアを開けるやいなや背を車につけ、全方向に銃を構えてから安全を確認、降車OKの合図を出す。
「感謝します」
 足を引きずる立輪を最後に皆が車を降りたのを見てから、シャオヤンに拳銃を返した。指で触れ、はっと小さく表情を動かす彼。
(安全装置はかけたままですよ。暴発したらタダじゃすまないでしょう)
 と、初めて体中に震えが走った。足がふにゃりと崩れてくるのがわかる。待ちかまえていたシモーヌがシャオヤンに抱きつく。今夜はケマイニ宅に泊まるように、悪いが荷物は自分と島の女たちで動かしてしまったと彼女は言う。シモーヌの患者たちが男たちの企みを教えてくれたらしい。
「アルト」
 ケマイニが姿を現した。一歩、二歩、と近づいてからわっと腕に崩れこむ。
「ケマイニ!」
(恐かった。恐かったよぉーーーっ!!)
 自分は本当はとても臆病なのに―
 がくがく震える。ケマイニはなだめるような声で何か言ってくれている。しっかと巻き付いた腕は鋼のように強く、かつ暖かい。
 しばらくそうしていてからケマイニは離れ、どん! と左足で床を蹴った。
(レッスンだ)
 いつもの開始の合図。肩を軽く押され、有人は別室に向かった。


「……あいつ、人を殺したことがあるな」
 その後ろ姿を見ながらパウヤが言った。
 慶と梨々果がはっと彼を見た。



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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