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ピンクのイルカが夢を見た 3-14

(やっっっ!)
 鼻に水が、何も見えない、珊瑚が痛そう、手が動かないっ!
「梨々果ちゃん落ち着け! そこは足は着くぞ!」
 声と同時に誰かが自分の尻を押し上げた。

 濡れたワンピースにぴっちりと体の線が浮き出て、もがく度に意外に白い腿が剥き出しになる。
 有人が声を掛けたと同時に、自力で桟橋にしがみついていた立輪が、片腕を伸ばして梨々果を押した。有人はしゃがみこんで手をさしのべ梨々果の腕を掴む。
「フウウッ」
 瀕死の鳥のような奇声をあげて梨々果が首を左右に振った。肌に海水を伝わせながら桟橋に這い上がる。
 慶は退く様子も突っ込む様子もなく、両足を軽く広げて男たちとにらみ合っている。パウヤが慌てて男たちを割って戻って来る。前に踏み出そうとした時、
「塩矢君、手貸してくれないか! 上がれないんだ」
(あ!)
 片足で奮闘していた立輪の肩の下に手を入れ、体重をかけて引っ張り桟橋に上げた。
 パウヤと男たちの口論が激しくなっている。
 言葉の勢いに、目の端に、きつく寄った眉に宿る憎悪ー
 と、男たちの表情が崩れるように揺れた。
「船」
 同時に梨々果が言った。青いじゅうたんの向こうの小さな影。
 陸を振り向いたパウヤが驚きの表情を見せる。パウヤだけではない。群れていた島の男たちが、信じ難いものを見たという顔でぽかりと口を開けた。
 後ろから有人の肩に軽く触れ、酋長ケマイニがパウヤの横に進み出た。
「○△×□……」
 腹からほら貝のように響く声。
 それでも何かいい募る男たち。だが風船がしぼむように声の勢いがそがれていく。プラニ、というあの女神像の名前が時々聞き取れる。手招きされて横に進んだ有人に示されたしぐさは、
(歌え?!)
パウヤに目を動かすと、彼は黙ってうなずくだけ。
(どうしてこんな時に思い出せなんて言うんだよっ!)
 恐がりの自分に、今命じることではない。
 ケマイニの皺の奥の目と見つめ合う。
 やがて一つ、息を吸い。
「る……るなるな……ピアネ……」
 最初は海の果て、陸の果ての人類発生の地から。
 神に愛された黒い土の楽園。豊かに流れる水。月が動き、星が流れ……高い山を越え、偉大なる水の間を歩み彼らは進む。子どもたちの、そのまた子どもたちのために新たな楽園を目指して。
 島の人間ー桟橋の男たちだけでなく、背後の浜の人々も―の視線も、慶たちのそれも今、有人に集中している。
 自分は恐がりだけど、スポットライトは嫌いじゃない。
 胸から首を伸ばすように、青く高い空を見上げ―響く限りに声を風に載せる。
(ここからなら、まつみ、君にも届くか?)
「……いえあ……あ違った! イムア…」
 余計なことを考えると詞を間違える。ケマイニの眉間の皺に肩をわずかにすくめ、歌の世界に戻る。
 船が近づき、船員の姿が見える。ケマイニは有人を先頭に、よそもの集団をゆっくりと桟橋の先に進めていく。
 歌を止めるな。言葉以外の何かで、そう伝わってきた。
 一本に伸びる桟橋を歩き、記憶をたどって歌う。
 桟橋の先端まで、どれくらいかかっただろうか。時間にしたら五分もない。だがそれは数時間、いや、歌の中と同じで何百年もたったようなー
 中国人商人がどさっと荷を落とす。その間に、船員にひっぱられてまずは梨々果、そして慶、立輪と船に乗り込む。今日はこの島に降りる人間はいないようだ。荷の上げ下ろしが終わると船はすぐ出ると船員が英語で話してくる。
「塩矢君! 乗って!」
 立輪の声にケマイニを振り返り、一度ぎゅっと抱きついてから船に飛び乗った。
 歌を止めた途端に石が飛んできた。くっと頭を押さえて甲板に伏せる。
 びゅっ! 棍棒までが飛んで来る。
「顔出すな! 死ぬぞ」
 船員が英語で怒鳴る。
 放物線を描いてカンカンと礫が落ちてくる。強い日に濃く落ちる自分の影。有人も、立輪も慶も梨々果も、皆はいつくばって頭を腕でかばった。
 まばらになった石の音が止んで、ようやくと起き上がると、船はかなりンマニ島から離れていた。
 白い縁取りをもった緑の塊。間もなく島を囲む薄い色のラグーンも紺碧の海に同化する。見る間に針の頭ほどになって消えた。
 有人は甲板のてすりを握り、もう見えない女神の島に別れを告げた。



(第3部完。第4部最終章へ続く)


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