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ピンクのイルカが夢を見た 4-1

 有人くん。
 わたしは、君を心配している人たちのことを考えて行動しろ、と言ったはずだがね。
 しかも、結局何もはっきりわかったことはなかったと? 
「……」
 こんなに怒った父を見たのは初めてだった。
 立ちつくす有人に父は書類を示した。
「……タカヤマ? 日本人?!」
 例の「工場」を所有する会社の名前はタカヤマブラザー商会。社長はジュマ・タカヤマ。専務はミマリ・タカヤマ。
「そういえば……工場は夫婦でやってるって噂も……」
(やっぱりあの時工場に行ってればよかった!!)
 帰りの船の中で船員たちに聞き回ったが、「工場」が実際にやっていることを知っている人間は誰一人いなかった。資源開発というのはカモフラージュで、実は海に沈んだ古代文明の秘宝を探していて分け前にあずかれるという噂も「工場」人気を高めている一つだという。
(梨々香ちゃんは疑問だって言ってたけど)
 アトランティスは大西洋、ムー大陸は太平洋でもずっと東南の地域。レムリアは、昔大陸移動説がまだ確信されていなかった頃に持ち出された仮説だから今では意味がない、と彼女は首を傾げていた。
 父曰く、これらの情報は有人たちの帰国前に警察には提供済みだ。英語圏でない地域の調査は、尋常でない手間とコストのわりに正確な情報が掴めず使い物にならない。この先はそれこそ警察の仕事だ―言われ、有人はただうなだれた。

 ンマニ島のその後については、シモーヌからメールが届いていた。

「ケマイニはタブーを破った―あなたたちを港まで送った―自分を自ら罰し、酋長の地位を剥奪しました。パウヤは正式に後を継がないという宣言をし、ンマニ島の酋長制は終わりました」

 島人に銃を向けたシャオヤンについては、島の伝統にのっとった会議で再入島は許されないと決まった。彼は父親の具合が悪いとのことで国に帰ったままだという。
(ケマイニ……)
 自分が好きだと思った人たちが、自分たちのせいで苦しんでいく。
 有人の心はまた大きく剥がれ落ち、沈んでは冷える。

                     ※

 学院を「森のお城」とからかわれることは嫌いだった。
 羽美子はごく普通の女の子で、まつみたち友だちも同じだ。けれど事件の後、初等部からこの学院で育った自分は何か鋳型にはめられていたのかもしれない、と思うようになった。羽美子をめぐる世界はあまりにもめまぐるしく変わり、まだ何が何だかよくわからない。
 けれど成長したと思えることもある。
 それは、人間の考え方って変わるんだなーと驚きとともに認められるようになったこと。まつみが親友の自分に最期に残してくれた置き土産なのかもしれない。
「塩矢っちの言う通りかもね。あたしもなんだか、まつみとお母さんとお父さんのこと、気になるようになった」
 手分けして彼らの本を読んでみようと打ち合わせる。
 新学期になってすぐ、慶たちの報告を聞いて、
『結局ぅ、あたし以外みんなパロリンガンに行ったんだぁ!』
 膨れてはみたものの実はそう不愉快ではなかった。事情はわかる。
(それより、家のお金勝手に持ち出して海外に行くなんてことの方が信じられない!)

「ラザファスタン共和国は南カフカスの小さな国ですが、一定量の油田があることと、それ以上に周辺諸国の油田から大消費地のヨーロッパに繋ぐパイプの通過点として重要視されていて、先日も欧州訪問中の米国国務長官が寄ったほどです。この十一月に大統領選が予定されていて、NATO加盟推進派の現職と、ロシア・米国との接近を望む野党党首の熾烈な接戦になっているとのことです」
 梨々果が平然と談話室のソファーにふんぞり返って演説しているのがものすごく嫌だ。
「ちょっと待って。NATO加盟派対ロシア・アメリカ派って何かおかしくないか? 普通、NATO&アメリカ派じゃん?」
「……なんかその辺は複雑らしいんですけど。現大統領が民族派、というか愛国派で、そのプライドを持ってNATOの一員になりたいってことで、対立候補は国際派、というか大国の庇護下での繁栄の方が現実的という見方のようです」
 冒険談のわりには三人が得たところはなかったんじゃないかと思った。親の反対で行けなかったけれど、ラッキーだったかもしれない。梨々香の演説にようやくきりが付き、羽美子はやっと口を挟む。
「顔のキズのことなら、あったよ」
 まつみは初等部一年生の時、校庭で転んで石が額に刺さり何針も縫った。
「先生とまつみのお父さんと大げんかしたんだって。もう少しで転校するかもしれなかったって言ってた」
 友だちもいるから転校にならなくてよかったー静かな声がよみがえり目の奥が潤んだ。
「まつみ、キズのこと結構気にしていた。何かの占いでそこにキズがあると二十八歳まで恋愛運が悪いってあったんだって」
 中等部に入った頃にはよほど注意しなければわからなくなっていたが、本人は気にしていた。
「慶君とつきあうようになってから、ほら見なさい! そんなの当たらなかったじゃない、って言ったら、えへへってうれしそうに笑ってて……」
 今度は喉の奥の塊に言葉が詰まった。慶も顔を伏せる。
 まつみはどうしてあんなことになってしまったんだろう。マーメイドティアーズのことだって―
「ね? 島のことは立輪っち経由で全部警察に行ってるんでしょ。だったらもう止めようよ。まつみが家出だって思われてた頃は警察も何もしてくれなくって、だからあたしたちが探さなきゃって思ったんだよね。でも、もう違うよぉ!」
 見渡すと、それぞれ表情が動いた。
「父さんにもそう説教された」
 有人が小さい笑みを浮かべる。
「でもオレは、引く気ねえから」
 低く揺るぎのない声。
「なんでよ! これ以上首突っ込んだら、かえってどこにも迷惑になるんじゃないのぉ!?」
「僕も引かないよ! 警察の人には頑張って早く犯人を見つけてほしいけど、これはまた別の僕の『仕事』だ。男にはさ、結果が出るとか出ないとか以上にどうしてもやらなきゃならないことがあるんだよ。あいつのためにこの『僕』が、ね」
「そりゃ、慶君はまつみのこと……。それはね……」
 気持ちはわかるゆえに言葉があいまいになる。苦しまぎれに有人に振った。
「だったら少なくとも、塩矢っちは手を引くべきだよ! お父さんだって心配してるんでしょ?」
「塩矢さんも、まつみ先輩のこと好きだったから」
 ぼそっと梨々果が言った。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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