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ピンクのイルカが夢を見た 4-2

 有人の顔は動揺で面白いように歪んだ。それは短い間で、彼はすぐ平静を取り繕ったけれど羽美子は言った。
「やっぱりそうかぁ。そんな気はしてたんだけど」
 納得出来る。
「ち、違えよ! そりゃちょっと可愛いなとは思ったけど、そんな子いっぱいいるし……慶、気にするなよ!」
「別に。僕に言うことじゃないじゃん」
 慶があからさまに有人の目を避けたのがわかった。

 門限が来て慶と羽美子が去る。黙って階段を上った梨々果に踊り場で追いついた。
「梨々果っ!」
 思わず呼び付けで怒鳴ると、びくりと体をすくませてふりかえる。大股で歩いて彼女のの前を塞ぐ。小さく口を開け閉めしているのを無視して有人は叩き付けた。
「言っていいことと悪いことがあるだろ!!」
 ごめんなさい、との情けない声が寮生たちの足音にまぎれる。
「根拠のないことを言うな! あいつが……慶がどんな気持ちになるか、考えたのか!!」
 頭を下げようとしている梨々果を突き飛ばすように過ぎて自室へ上がった。

                   ※

 整髪剤で髪を作り、アクセサリーは大ぶりなものを数個。普段と全く違う格好だから、クラスメートと行き会ったとしても有人だとはわからないだろう。
 金曜の夜。親には寮へ残ると嘘をつき、ひとり眠らない街で夜を過ごす。
 クラブらしい大音響の下で目まぐるしく変わる光と影。物憂げに歩く有人にブロンドの女が声を掛ける。腕に絡む白い肌の、金色のブレスレットが小さな痛みを与える。適当にあしらってまたフロアを歩く。「坊や」を食い物にしようとする嫌らしい連中。汗まみれの女から立ち上る香水の匂い。絡み付く視線と飛び交う声。
 全てふりはらい、狂ったようにフロアで首を振る。大きく開いた素肌の胸に天井から降る光を求めるように、強くのけぞり―
 忘れようとした思い。
 きのうは寮近くの店でレンタルした「華の雫」を見た。今年の春、まつみが最後に慶と一緒に見た映画だ。
 女の子向きでとても見られない、という前評判とは違った。むしろ甘い映画に徹した方がよかったと思う。ヒロインの令嬢が将校を雨の中で待ち続けるのはいいが、そこにクーデター話など絡める必要はない。翌日高熱を出して寝込んでしまった令嬢が、思い人の見舞いに気付かず、将校はそのまま戦場に行ってしまうというせつなさがそがれてしまう。
 悪くない映画だったが、楽しもうとして見たわけではない。
 けれど事件の手がかりになるものも何も見つからなかった。
 父の厳命で人魚の涙に行くことも出来なくなった。
『父親にバレて怒られたんです』
 どうしましょう、と相変わらず嘘は最小限で支部にいるナビゲーターに電話する。
『いいチャンスじゃない? お父さんやお母さんも会員に導きましょうよ』
 慣れた様子でナビゲーターは返した。
『塩矢ヘルパー。新しい課題を出します。あなたが恐いと思うことを百点、正しいと思うことを百点、書き出しなさい』
(こんなことで何がわかる。何が目的だ?)
 まつみもこんな作業をやったのか。
 彼女の父親の健康法本もいくつか読んだ。健康維持法としては参考になる所は多々あったが、少なくとも有人の担当した本にはほとんど家族のエピソードは載っていなかった。
 あれから四人では会っていない。梨々香は逃げて口をきかないし、慶も話しかけてはこない。羽美子だけがにっこり声をかけてくるが彼女は調べ物は警察に任せる主義だ。
 もう、手詰まりだ。
(だけどここであきらめたら、勝つのは「狂暴で凶悪な」殺人犯なんだよっ!!)
 外からの叩きつけるようなビートに狂っていくー
 このままでは、自分は壊れる。
(ケマイニ。ほんとはあなたみたいな歌で踊れたらいいのに)

                   ※

 月曜の夕食後、放送で寮電の呼び出しを受けた時、少し緊張した。夜遊びがどこかでバレたのかもと思ったからだ。電話室に飛び込むと、係の女子が日本語通じないんですがミスター塩矢と繰り返してる、と受話器を指す。礼を言って受話器を取った。
「Hello!」 
「久しぶりだな」
 だみ声の男が英語で返してきた。
「今、仕事で日本に来てるんだ。たまたまヤクザさんと取り引きがあってさ。ああ、お前は誤解していたみたいだが、俺たちゃああいう犯罪組織とは違う。ちょっとした互助会だ」
 ヤクザとビジネスをするならしょせん同類だ。
 遠い昔に置いてきたはずの世界での、ほんのちょっとした「嫌な」知人。ようやく思い出した。軽い昔話の後、男は切り出す。
「気をつけろよ。お前、ジャパニーズヤクザとバッティングずるぞ。パロリンガンとかってとこにある『工場』に関わってんだろ?」
「えっ?」
(何で……)
「あいつらも興味を持ってる」 
 とあるヤクザの事務所で、パロリンガン絡みの書類と共に有人の写真があったのを見たという。
「なあ、どうしたんだよ」
 興味津々で聞いてくる。
「何もないよ。ぼく、こっちではビジネスしてないし」
 男が目を丸くしたのが見えるような気がした。
「ね。そのヤクザさんたちって、『工場』をどうしようって言うの?」
「そこまでは知らねえな」
 日本語は読めないしとうそぶく。
「『取引先』なんでしょ? 聞きだせない?」
「そりゃあ無理だ。こっちにとばっちりが来る。それにお前は昔、俺たちの仕事に協力してくれなかったんだからな」
 せいぜい長生きしろよ―善良そうな声で笑ってじゃあと言う。
「だったらどうして、そんなことわざわざぼくに教えてくれるの?」
「それでも、俺はお前の仕事が好きだったんだよ」
 笑い含み、寂しさも含んだ複雑な声だった。
「……サンキュ」
 電話はもう切れていた。

 すぐ父にメールをしたが、返ってきたのは母からの電話だった。
「有人。あんたマジで冗談になってないわよ」



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