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ピンクのイルカが夢を見た 4-3

 両手に繋がれた電極の向こうで、針が紙に記録を落とす音が続く。
「あなたは本当に地球のために献身しようと思っていますか」
「はい」
「あなたは企業のスパイではないですね」
「はい」
「あなたは入会申込書に嘘を書いていませんね」
「はい」
 全てにはいと答えるように指示された。脈拍や呼吸の変化でこちらの思っていることがわかるのだという。念のためです、何も恐れることはありませんと人魚の涙のスタッフは言ったが、慶がそう思わなかったのは当然だ。
 ようやく人魚の涙の嘘発見器チェックにこぎ着けた。事前に羽美子にこと細かに話を聞き、立輪にも相談して対策を練った。
『慶君ならクリアするかもね! でも、すっごく変なことを信じているかもしれないけれど、地球のことを真剣に考えている人たちを騙すのはあたしはどうかなぁって』
『クリアしたらお礼&お祝いでおごろうか? ホテルのケーキバイキングはムリだけど駅前のカフェのケーキセットくらいなら……』
『もおっ!』
 一つの考えだけを正しいと思い込むことは事を真剣に考えることではない。慶は内心苦笑した。

 中等部でサッカー部に入ってから、慶はスポーツ医学について少しかじった。先生やコーチに教えられたことだけでは差が付かないからだ。その時に学んだことからも、まつみの父が本に書いていることは間違ってはいないと思う。
 健康を維持する原則は、良いものを入れ、悪いものを出すこと。
 ただし運動をすれば悪いものは汗や排泄で自然と出るので、要はちゃんと食べてきちんと体を動かすというのが彼の教えだ。
 当たり前じゃん、と慶は思う。
 当たり前のことを教えているんでは儲からないだろう。思っていたが、報道に寄れば全国各地に教室があり、お客さんも多かったらしい。結構なやり手なのではーいや。
(マスコミなんか好き勝手に話デッチ上げるか……)
 自分がどれほど極悪な高校生に仕立て上げられたかを思い出し、苦笑する。
 有人や梨々香は、まつみの家族関係に何らかの問題があって、それが人魚の涙に入って命を落すことに繋がったと思っているらしい。
 家庭に恵まれていないらしい梨々香が思い込むのは仕方がないが、有人にはいらだたせられる。最近羽美子までそちらに引っ張られ始め、おかげで慶も仕方なく、手持分も含めまつみの両親の著書を読む羽目になっている。
 こうやっては子どもは育たない、ああやっては駄目だと上から目線で述べ立てるまつみの父の本を読みながら、

『わたし、駄目だね』

 と寂しげに笑ったまつみのことを思い出すと、納得はいかないが、それが彼女を殺したわけではないだろう。では何が彼女を自分から奪ったのか? やはり人魚の涙か?

 
 男は黙って勝負する、だからこそ見た目を磨くのも男の義務―これも慶の持論だ。有人は学院の生徒の中では地味でとりわけファッションにも無頓着に見えた。エスカレーター校で時間もたっぷりあるのに怠慢だ。気のいい奴だけど、たいした男ではない、と少々軽く見ていたかもしれない。
 今は違う。慶の目に映る有人は少しずつ大きくなる。
 まつみの真実を追う一途さに、妨害をものともしない強さに。
 パロリンガンでの有人はとんでもなかった。自在な英語、外国人の大人相手の交渉での手慣れた調子。それどころか銃の扱いに慣れていて、
 ―人を殺したことがある……?
 パウヤの言葉が澱のように胸の中に沈む。
 有人と比べたら自分はただの高校生でしかない―?
 いや、男は黙っていつも冷静で、守るべきものを守り狩るべきものを狩り、成功するだけだ。
(って何を守る? まつみはー)
 どうやったら、僕はここで勝つことが出来る?
 どうやってこのチャレンジを乗り越えられる? まつみはもうー
(負けたくない。塩矢有人には)
 負けられないと思うことは格好悪くない。全力を尽くして勝負をしたなら、勝っても負けても格好いい。ただし頑張ったからOK、という非合理的な努力万能主義は嫌いだ。負けても全然格好悪くはないが、それまでの努力の意味は消える。あくまで結果が全てだ。
「あなたは人魚様が存在していることを信じていますか」
「はい」
「あなたは善き人が人魚様に生まれ変わることを信じていますか」
「はい」
「あなたは人魚様のためなら全てを捧げて献身しますか」
「はい」
 あーもう何でも来い。何でも信じてやる。宇宙の根本はマヨネーズだと言われようと梅干だと言われても信じてお祈りしてやる。慶はその調子で人魚の涙の準会員の中で頭角を現し、会員への推薦を受けたのだ。
 有人は父親の猛反対でせっかく入信したマーメイドに最近は顔も出していないという。ならば今度は自分が潜入する。
(あいつだってこれには通ったんだ)
 質問者の女が書類を置いた。テストが終わったらしい。彼女の笑顔には曇りがなかった。
(勝った!)

                ※

 「奴」からの電話について慶たちに話すことは出来るか。
 無理だ。それにはあまりにも有人の「隠し事」は多過ぎる。
 だけどあの電話で冗談にならないのは彼らも同じだ。放ってなんかおけない。
 警察に頼めばいい。そうしたら、彼らは危険だと判断した時には慶たちにも適切な保護を与えてくれるだろう。
 けれど警察は有人を信じてくれるだろうか。
 ヤクザとビジネスをするような相手と知り合い、と言ったら自分まで犯罪者同然だと疑われるのではないか。今の自分は普通の高校生のはずなのに。
(立輪さんに相談してみようか)
 あの島で立輪は有人のことを「知っている」と言った。殺人事件の周辺捜査で身元を洗ったと。それならば何も隠す必要はない。
 両親もそれに賛成し、母が署まで同行することになった。
 だが、その前にー


 シモーヌからメールが来た。
 工場について噂でも何でもいいから教えてくれと言っておいたので、期待してメールを開いた。
 そのまま凍りつき、動けなくなる。
 九月十三日、ンマニ島西部の泉の近くの崖で。
 崖から落ちてー
 酋長ケマイニが死んだ。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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