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ピンクのイルカが夢を見た 4-4

 「カムエ・ナー!……サー! トファー……ヴァオヴァオ・ラー……」
 目を凝らせばやっとわかるほどの暗い星が三つ。出ていた月は雲に隠れた。
 夕食以降は寮の屋上に出ることは禁じられている。だからこそ誰も来ない。
 声は抑えつつ、有人は星の降るようだったンマニ島の天空とは似ても似つかない濁った空に向かい歌い上げる。
 水に満ちた楽園から危険な山の道をたどり、人をも乾かす砂漠を横断。
 親が倒れ、子が倒れ、夫が妻が、土くれに戻ろうとも彼らは進む。明日のそのまた明日の子どもたちのために、新たな楽園を目指して。
 まつみが死んでも、ケマイニが死んでも有人は進む。
 鋼のように頑強だった茶色い腕。熱のようなぬくもり。意味はわからなくともあたたかい言葉。
 低く月まで駆け上がるような声と比べて、今夜風に紛れる自分の声はあまりにも高く細い。けれどこの歌を歌えるのも、もう自分しかいない。
 いくつもの船に分かれて漕ぎい出て様々な島に渡り、争いで仲間が倒され、やっと泉のある地ンマニ島に彼らはたどり着く。
(ケマイニ)
 たまたま折り重なった葉に足を滑らせ、崖から落ちた事故。島人が彼を発見したのは古い泉のそばだったという。
 黒い雲に隠れては出る月に向かい有人は声を張った。

 遠く、その姿を双眼鏡で見つめる人間がいることには気付かなかった。

            
 自室に戻ると封筒が届いていた。郵便委員が配ったらしい。差出人はなく、宛先は住所に続いて、
「白雪寮 三○二号室 塩矢有人様」
 中にはワープロ打ちの短冊状の紙がぴらりと一枚。

 「パロリンガンの研究所は、古代太陽神ラーの九千年前の遺産を受け継ぐためのもの。賛同すれば、君も地球一豊かになる」

                   ※

 談話室に四人が集まるやいなや、慶はらしくもなく赤く染まった顔で言った。
「僕、失敗しちゃってさ。恥ずかしいったらないよ。穴があったら入りたい、どころか自分で穴掘って埋まりたいぐらいだ。マントルまで掘ったら暑くて死にそうだからせいぜい蒸発しないあたりまでね」
 マーメイドの嘘発見機に挑戦したが、
「駄目だった。上手くいったと思ったんだけどなあ。終わったら係のおねーさんがにこっと笑ってやったーって思ったら、データ付き出してきてさ。マーメイドを信じてなくて、何か別の目的があるってのが丸出しなんだってよ。『そんなことないですよー。えへへー』って食い下がったんだけど、結局また勉強して、三ヶ月以上経って今度は本気で地球に貢献したいと思ったら来なさい、って追い出された」
 有人は目を見張った。
「お前、危ねえぞ」
「自分は潜入したくせにそれはないじゃん!」
「……」
 島に行き、あの電話を受けた今では危険度が違う。そんな軽い口調で言うことではない。
「オレだって今は出入りはしてないぜ。メルマガは来るけど、居軽の講演予定の変更とか『生命の歴史を人魚様のお告げで知るセミナー』程度のお知らせばっかり。電話で……」
「おやじさんに反対されたんだろ? だから今度は僕が入ろうとしたんじゃん!」
 不機嫌に返す。

 梨々果の「失言」以来、慶はどこかぎこちないままだ。その梨々香は寮食堂で見かけても逃げるほどで、口などきくわけもない。今日も一度も目を合わせようとはしない。
 ケマイニのことはすぐにメールで彼らに知らせてあるが、羽美子はともかく慶が、
『そんなことになるとは思わなかったのに。残念だな』
 程度だったのも不快だった。誰に命を助けてもらったのか。
「ラザファスタンの大統領選ですが、現大統領のキャッチフレーズは『インド・ヨーロッパ語族の故郷ラザファスタンに栄光あれ!』だそうです」
「インド・ヨーロッパ語族の民族移動だっけ? 世界史でやったよね。いつ頃だったかな?」
「数度に渡りますが……」
 梨々香も梨々香だ。自分に口をききたくないのは別にいいが、調べ物好きだからとそんなマニアックなことまで報告してどうしようというのか。
 まつみの行方を一緒に追ってきた仲間たちのそばにいても、不愉快でならない。
(それとも……本当は恐くて、逃げ出したいくらいだから落ち着かないのかな?)
「今までのことをまとめてみたんだ」
 慶が紙を小テーブルに広げた。


【まつみが殺されたのはいつ?】
 ・パロリンガンへの同行者と落ち合う前 
  1 通り魔など
  2 まつみに行かれては都合の悪い人(反対者)
 ・同行者(マーメイドメンバー?)と合流後 
  3 同行者本人(何らかの争い)

【誰に?】
 ・通り魔
 ・マーメイドティアーズ関係者
 ・反マーメイド(または反「工場」)の人々
 ・その他の知り合い

【動機は?】 
 ・反工場の関係者 工場阻止のため
 ・マーメイド   何らかの争い(まつみが思い通りに動かない、利用価値がなくなった等)
 ・通り魔的動機
 ・その他まだ知られていない動機

【犯行後、改めて傷付けた理由は?】
 ?

 報道に寄れば警察は、容疑者を全くの通り魔まで範囲を広げて改めて捜査し直しているという。新たな検査結果では、まつみの衣料から雨だけでなく海水の成分も多量に検出された。生前海に突き落とされるなどの暴行を受けていて、絞殺時には既に抵抗の力を失っていた可能性があるという。
 それは慶の容疑を薄めることにはなって、寮近辺を刑事がうろつく姿も見なくなった。だが逆に、まつみが人生の最後に、今まで思われた以上に苦しんだということになってしまう。
 立輪はンマニ島でのことをどう警察の中に伝えたのだろうか。来週母と会いに行ったら聞いてみよう。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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