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ピンクのイルカが夢を見た 4-6

「なんで拳銃なんか使える?!」
「使えるんじゃねえ。使い方を知ってただけだ。……ずっと前に、元軍人から教えてもらった」
「軍人っ?」
「日本人じゃねえよ。イギリス陸軍、って言ってたな」
 思い浮かべる。
「ということは、あのひとは人を殺したことあったんだよな……」
 当たり前だ。実戦に従事した職業軍人だったのだから。
「……それでそんなに上手くなるもんなのか? もう一つ。いいか。お前『工場』について行きの船の中で聞いたって言って教えたよな。僕はお前みたいには英語しゃべれないけど、リスニングはある程度出来る。船員も客もネイティブじゃないから聞きやすかったしね。僕は『工場』の噂話なんて一度も聞いてない。だったらお前、どこでその話を聞いたって言うんだ?!」
 言葉が出なかった。
 羽美子と梨々果もじっとこちらをを見ている。
「……とにかく、あの船で聞いたことは間違いない。誓うよ」
「説明になってない!」
「お前はずっと船室にいたけど、オレはあちこち行ってた。ずっと聞き続けてたわけじゃねえだろ?」
「あの船は小さかった。甲板での話くらい下でも聞こえたよ」
「……」
「マーメイドの嘘発見機に『勝った』のもおまえだけだ。普通、そんなこと出来るものか!? 脈拍に呼吸に肌の電気信号まで計られてるんだよ! 僕は行く前に立輪さんに電話して、嘘発見機についていろいろ聞いたんだ。それでも失敗したけどね。言ってたよ」
 警察の嘘発見機《ポリグラフ》でも反応が出ない人間がいる。犯罪の常習犯で嘘を吐くことを何とも思っていない連中だ。
「塩矢有人。おまえが犯人でないという保証もないな」
「オレが…………まつみをやったとでも言うのか」
「あいつに気があったんだろう? だったら、可能性はある」
「慶君止めて!」
 羽美子の小さな悲鳴が、余計勘に障った。
「前にも言ったけど、オレはまつみをただちょっと可愛い女の子だと思ってだけだ。そんなことならそっちの方がよっぽど犯人向きだ。あいつと付き合ってたんだろ? 夫婦だのカップルだのでの殺人事件なんか転がってるじゃねえか! 好きだなんて気持ちは、何かの拍子にあっという間に憎しみに変わるんだっ! 狂暴で凶悪な憎悪に…」
「お前……っ!!」
 掴みかかってきた慶からひゅんと退く。体力は彼が勝っている。組んだら勝てない。
「止めて! 止めてったらぁっ!」
 羽美子が慶の右腕にぶら下って必死で止める。梨々果は立ち上がったまま怯えた目で二人の男を見比べる。
 共に息を弾ませて、有人と慶は仇のようににらみ合った。

                 ※

 弓を持ち上げる。
 顔を的方向に向けると同時に、いつも通り何もかもが頭の中から消える。
 まつみのこと。怒り。恥。困惑も希望もー
 弦の強い抵抗を両腕で感じなら、慶は弓を開く、開く、ひら……
「うわっ!!」
 ズサッ!
 開き切りもしないうちにいきなり勝手《みぎて》が滑って離れ、矢は射場のすぐ斜め前の草の上に転がった。
「桐生先輩、大丈夫ですか」
 後ろにいた二年の女子が矢を弓につがえたまま声をかけてきた。

 「桐生君。少し的前に立つの止めて様子見ようか?」
 矢を拾って射場に戻ると、部長の守屋が顧問の先生を連れて来ていた。
 早気どころか、とうとう暴発を繰り返すようになった。
 矢が射場に転がったからいいものの、射場の部員に当たったらただでは済まない。元は武器、命に関わる事故も有り得る。
「はい。……済みませんでした」
 練習は見学で済ませ、終わると逃げるように更衣室に飛び込む。
 帯を手早く解くと黒い袴がぽこりと床に落ちた。


『慶、胴着袴似合うね』
『胴着袴ってさ、日本人体型でないと似合わないんだよ。足が短くないとそれらしく決まらないってこと。相撲の回しとかとも同じだったりして。でもさー、僕そんなじゃないつもりなんだけどなー』
『慶は足長いよ。でも、弓道着似合う』
 いつもにも増して恥ずかしそうだったまつみ。


 自分は言い過ぎた。有人がまつみを殺したなんて思っていない。けどあいつはー
『塩矢っちだって、そんなこと本当は思ってないよ』
 羽美子は言ったが、それは絶対に口にしてはならないことだ。
(僕も……)
 正体を現さない有人。及び腰だけど純真な羽美子や小理屈屋でも真面目な梨々香に対し、慶も隠し事をしている。
 有人が突破した人魚の涙の嘘発見器を通らなかった、屈辱。
 男として、勇敢でありたい。慶は心を決めた。
 まつみのためにー

                 ※

 十月になったばかりだが、水族館への客も含め、海岸には観光らしい姿も結構見える。砂浜を歩くと革靴の足跡がざっ、ざっと付き、そんなことでも面白がって彼女らは笑う。
 羽美子は合唱部の女の子たちと海辺に遊びに来ていた。
「そっち見るの止めなよ。松法さんのお化けが居るかもよ」
 反射的に顔を上げる。
 言った下級生は途端におろおろし、回りの部員に肩を叩かれて謝った。
「済みません。瀬賀さんのお友達だったんですよね」
 数分前に日は落ち、急にあたりの光景が色を失う。浜辺を洗う波の向こう、海浜公園でまつみは遺体となって眠っていた。
「……謝ることないよ。こっちこそ、気遣わせてごめんね」
 皆で仲良く、ずっと楽しく過ごせたらいい。
 どうしてそう出来ないのか。羽美子は最近大発見をしたーとクラスの子に言ったら、
『当たり前じゃん!』
 と言われた。真っ当な人同士でも「考えが違うから」
 少なくとも羽美子はやっと気が付いたのだ。だけど、自分と同じように人の考えは変わるからー
 まつみが連絡もせずに行方をくらます女の子だと勘違いしていたように、慶や梨々香たちは思い違いをしている。彼女についてよく知らず、何か隠している怪しい有人など問題にもならない。
「それに、まつみは幽霊になんて絶対なってないからあ!!」
 薄闇に溶ける水平線。
(本当のことを知ってるのは、あたしだけ)



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テーマ : ミステリ
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