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ピンクのイルカが夢を見た 4-8

 それから後のことはよく覚えていない。
 母が校門で張る男たちに気付いたこと。彼らの会話に有人の名が出てきたこと。大事を取って警察に迎えを寄越してもらった時には、彼らの車は跡形もなく姿を消していた。
 迎えに来たのは見知らぬ男性警官で、警察署に着くと、以前、まつみの携帯が見つかった時に立輪と来た女性刑事が有人たちを出迎えた。中河原《なかがわら》警部補というそうだ。
 立輪はまつみの事件から外れたそうで会えなかった。無断でパロリンガンに行ったからかと聞くと答えはなかったが、そうらしい。島でのことは報告書をもらっているから安心して、大変だったわねと彼女は言った。
 狙われていたのかもしれない。その疑いに怯えた有人に中河原が駄目押しをした。
『ちょうど皆さんに連絡を取ろうと思っていたところだったんです。国際捜査の協力依頼を受けていて』
 そして言った。
『ケマイニ・パードラフミー殺害事件に関連して』


 夢の中で、海の向こうに街があった。
 その手前の海では白やピンクや青のイルカが飛び跳ねていた。ピンクはまつみのコートの色だと有人は思った。
 人魚も飛んでいた。緑色の鱗が日を浴びて七色に光り、とても美しかった。
 人魚がまつみの顔をしているのに気付いた。控えめな見慣れたまつみの顔だった。そうだ、この子は殺されたのだと思い出した。君は誰に殺されたんだ? 心の中で思っただけなのに、まつみから答えが返ってきた。
 塩矢くん。
 違う!
 と、まつみは緑に光る鱗で薄汚れた色の水をはね上げて、片手をぽんと振った。
 スクリーンに写したように、有人がまつみの首を絞めるシーンが再現された。完全な悪の形相で、力をこめてまつみを締め上げる。
 違う!
 違わない。塩矢君だけじゃない。みんながわたしを殺したの。
 こちらを向いた人魚の体が、ぱきぱきと輪切りに開いた。
 慶が、梨々果が、羽美子が、まつみを殺すシーンが現れた。
 まつみの母が父が、担任の中川が、なぜか有人の父母や祖母までまつみを殺していた。
 羽美子は龍になって口から火を噴いて焼き尽し、中川は頭から角を生やし斧を持って頭をぶち割っていた。
 止めてくれ! なんでこんなものを見せるんだ?!
 だって、塩矢君がまだ死んでくれないから―
 自分のうめきで目を開けた。
 トントン。ドアを叩く音。
 夢の中でもいいからまつみに会っていたかった。なのに目が覚めていくのと同時に、声も姿も薄れてしまう。
 
 ンマニ島の人々は島の隅々まで知り尽くしていた元酋長の死の不審さを噂しあった。だが、パロリンガン本島の警察にまで声が届くのには時間がかかった。ンマニ島に親族がいるリゾートスタッフが話を警察に持ち込んだという。
 捜査の結果、ケマイニは事故を装って崖から突き落とされ、駄目押しに頭を強打されていたことがわかった。
『よそ者の仕業に違いない』
 外来者は誰もいなかったにも関わらず、島人たちは訴えているそうだ。
 有人はその翌週、母親に送られてやっと寮に帰った。警察も学校や寮回りの見回りを約束してくれていた。だが体育の時間に倒れ、そのまま母親に引き取られて自宅に戻りずっとベットで寝ている。
 まつみがいなくなってからずっと、自分が壊れ、凍っていくのが恐かった。
 けれどいっそその方がよかったのか?!
 自分が死ねば、もう誰も殺されないかもしれない。まつみも、ケマイニも。そしてー


『オレは、人に憎まれることがすごく恐いんです』
 狂暴で凶悪な、人の心身を破滅させる恐ろしい憎悪。
『憎むことが恐いの? 憎まれることが恐いの?』
 人魚の涙のナビゲーターからの電話。聞かれてはっとする。
『憎まれることです』
 遠い記憶を必死で封じて。
『じゃああなたは人を憎まないの。そんないい子ちゃんなの? それだったらもう、教えなんか聞かなくても人魚様に成れそうね!」
『いや、そんな……』
『誰かがあなたを憎むことが出来るのなら、あなただって誰かを憎むことが出来るのよ。何故それを見ないの?』
 鮮烈に斬る。
『あなた、お母さんのおせっかいなところが嫌いって書いてたわよね。押しつけがましいところが嫌いとも書いてたわよね』
 入信直後に受け取った課題。「家族について嫌いなところ」で確かに書いた。
『それは……どうしても探せば、それくらいかな、って言う……』
『どうして逃げるの? ほら』
 断罪する。
 奴らはまつみを殺したかもしれない連中だ、罠にはまるな!
 言い聞かせながらも、頭の中がバキバキと割れていくれようで有人は混乱する。
(本当にぼくが恐かったのは、自分が憎むこと?)
 胸の中に黒い雲が入り込む感覚にぞっとした。嫌だ。これは本当に嫌だ。逃げ出したい。
 認めたくなかっただけなのか。
 狂暴で凶悪な憎悪で、本当は人を殺害出来るー?!
『塩矢ヘルパー。あなたは人が汚い心を持つのが恐いといいながら、実際には自分が汚い心を持つことを認めたくないエゴイストなのよ!』


 母が入ってきて、学校のお友だちが来ているという。
 ハンサムな子と可愛い子、と言うので慶と羽美子かと思ったが、慶と一緒にリビングに座っていたのは梨々香だった。



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テーマ : ミステリ
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