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ピンクのイルカが夢を見た 4-10

『有ちゃん……。元気になったら、話したいことがある。時間取ってくれる?』
 帰り際、前髪をかき上げながらささやいた慶は同性の目から見てもいい男だった。
『OK』
 あの子が好きになったのも当然だ。
 もう少しだけ、眠ろう。
 

 日曜日。閑散とした談話室で梨々香が英語サイトを読むのを手伝う。
「お母さんは、嘘吐きだった」
 アレをしなさい。言いつけてその通りにすると「コレをしろと言ったのに」と全く違うことを言って梨々香を殴った。
 友だちと遠くの公園に遊びに行ってきたら?
 言われたから川向こうまで行ったのに、帰ったらそんな遠くまで勝手に行って悪い子だと叱られた。公園近くの駄菓子屋でお菓子が買いたかったんだろう、と決めつけられた。
 父はただ、
『なんでお母さんの言うことを聞かない?』
 と一緒になって梨々香を殴った。
 そのうち梨々香は、何も言わなくなり、どこにも行かなくなった。
 何をしても気に入らないなら、無難なのはそれしかない。
 友だちもほとんどいなくなった。
 小学二年の時、何かのついでに担任にちょっとだけ話してみた。その後両親が学校に呼ばれて、帰ってくるといつも以上に殴った。学校に行ったら行ったで、
『楡崎さん、嘘ついちゃ駄目なのよ』
『お母さんやお父さんは楡崎さんのこと、本当に大事に思ってるのよ』
 優し気に言い聞かされるだけだった。
 大人と子どもの言うことでは、皆大人の方を信じる。誰も助けてくれない。
 梨々香はあきらめた。人生を。または自分を。
 光が差したと思ったのは十二歳の時。
 引っ越した先のアパートの隣の人が、たまたま児童保護を仕事にしている人だったらしい。ベランダ越しに聞こえる声で、彼女は母が嘘で梨々香を振り回し、両親に殴られ続けていることを知った。
 家から施設に収容され、解放感にひたった。施設の先生は、梨々香の両親は恒常的な「心理的虐待」及び時々「肉体的虐待」をしていた、と言った。間もなくそこから里親に引き取られのだが、一年もたたずに、
「私はまた、捨てられた」
 正確には梨々果に愛想をつかした。
「あっちのお父さんやお母さんは、可愛い子が欲しかった。可哀想で可愛い子」
 子どもの頃に読んだ名作文学の主人公のように、何をされてもけなげににっこりと笑い、明るく働くような子。
 里親は、大学を出るまでの経済的面倒は見るが後は勝手にしろと言い、梨々果を寮のあるこの高校に押し込んだ。
 以前の施設の先生や、つてをたどって最初に梨々香を救い出してくれた隣人にも連絡を取ってみたが、
『わたしの仕事ではない』
 と及び腰で、いくつかの相談窓口を紹介するだけだった。
 梨々香はまた、大人はー勿論子どももー誰一人助けてくれないのだと知った。
「大学までの学費の口座は、もらってる。こないだの旅行のお金はそこから引き出したんです。いいんだ。私、うちの大学じゃなくて国公立受けるから」
「……大変だな。それが立輪さんが言ってた『苦労』か」
 扱いやすい女の子とはとうてい言えないが、大人のくせに放り出すのもひど過ぎる。
 有人の膝の上に、ふわりとストライプのシャツが落ちてきた。
「済みません。これ、ずっと借りてました」


 パウヤが言った中で民俗学者については一通り調べた梨々果は、今度は二年前の中国人遭難者について調べ始めた。目的の情報がモニターに出た時―
 二人は、ただ顔を見合わせた。
 モルディブ観光局の外国人遭難情報。パウヤの言った条件に合うのは一人だけ。
 二十四歳、女、MAYU SAKAGAMI―

                   ※ 

「大丈夫ですか? 痩せたんじゃないですか」
 有人は第一声で言った。
 地元図書館の二階。新聞の縮刷版が並ぶラウンジで、立輪は
「心配ないよ」
 とそれこそ心配になるような力ない声で有人と梨々香に返した。
 パロリンガンへの勝手な渡航が問題とされ、まつみの事件の担当を外されたことを彼は正直に認めた。
「今は別の仕事が忙しくて」
 そんな立輪が足を伸ばしてくれたことに頭を下げる。だがまだ何ともわからない話は中河原には相談しにくかった。

 立輪が調べてきたことは、新聞縮刷版の内容と矛盾はなかった。
 新婚旅行中の女性が波に呑まれて行方不明になった。助けようとした夫も流されたが、こちらは漁船に助けられた。記事には名前は書いていないが、「坂上真由《さかがみまゆ》」という日本人であることを立輪は確認してきてくれた。その後パロリンガン諸島ンマニ島で遺体が発見されたことも記録に残っている。
「あの人たち、ほんとに日本人と中国人の区別がつかないんですね」
 梨々果があきれて言う。
「で、悪いんだけど、ボクがこの人たちに話を聞くことは出来ないよ。はっきり事件と関係があるんなら別だけど、新婚旅行中に奥さんを亡くした人にはとても……」
(優しい人だな)
 痛みを浮かべた彼の目に思う。
「お嬢さんの事故に父親は取り乱して、遺体発見先、つまりあの島での遺体の扱いが悪かったと大騒ぎしたそうだ。だんなさんのほうは去年別の女性と結婚して新しい家庭がある」
「一年で再婚したんですか。その夫って本当にシロなんですか」
「事故当時の状況には疑問は全くないよ」
 新郎も助かったのが奇跡に近かったと梨々果に説明する。
「ボクも、こうすぐ再婚するのはどうかと思うけど……」
「苦しかったからだろ。やっと好きな人と一緒になって、幸せの絶頂って時にそんなことになっちまったら」
 思いが強かったからこそ、新しい恋を始めなくてはいられなかったのだろう。
「早過ぎます!」
「いくら好きだって、この世とあの世に別れちまったら、もうどうにもならねえんだよ!」
 まあまあと立輪が二人をなだめる。
「あ、塩矢君、君が言ってたこの人だけど、撮らせてはもらわなかったんだけどスナップに写ってた。伸ばしてみたけど、これでいいかい?」
 ぴらりと見せる。
「良く写ってるじゃないですか。これを中河原さんだっけ? に渡してもらえませんか」
「塩矢さん。この人が何か?」
「ほら楡崎さんも知りたがってるよ。あのね、塩矢君はボクにも何だか教えてくれないんだ」
「まだ確証がないからですよ」



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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