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ピンクのイルカが夢を見た 4-11

 前に羽美子が、

『あたしは、人が嫌な思いをするようなことをするのがヤなの』

 と言っていた。自分も同じタイプだと有人は思う。
 難しい幸せや高い理想などはわからない。ただ回りの皆で笑い合って、その人たちと一緒にいることが楽しいなあと思えればいい。自分も、誰かが微笑むための存在でありたい。
 だから悪意が苦手だ。
 他人を壊そうとする狂暴で凶悪な感情を想像するだけで、有人は心身が麻痺してしまう。
 人魚の涙のナビゲーターが言うように、それはエゴかもしれない。
 本当は、自分が誰かを憎むことが一番恐いのかもしれない。
 でも、今はそれでいいと思う。
 大好きだった人たちが死んで、それでも有人は残っている。
 だったらその人たちが笑えなくなった分笑って、泣けなかった分泣いて。
 たくさんその人たちを思い出して、彼らのことを話し、その度に優しい気持ちでいられればーいつかは、辛くなくなるのだろうか?

 
「君たちには、本当に申し訳ないことをしたと思う」
 有人の担任である中川はいつも以上に目をしょぼしょぼとさせて言った。
「もっと早く、君たちの話を真剣に受け止めて、松法さんのことを警察にかけ合えばよかった」
 ケマイニの殺害、歌の秘密。久々に四人で話したいと有人がとメールを回した時、羽美子が前に中川が言ったことが気になると返してきた。
 放課後、羽美子と共に社会科準備室の中川の前に座る。
「いいえ、先生! どちらにしろあたしたちが見つけ出そうとした時には、まつみは亡くなってたんです」
 事実だが、明るい声で言う羽美子には違和感を覚えた。事件以来ますます身を細めている中川の方がよほど自分に近く感じる。
(ああでも。ここで暗くなったら先生を責めることになっちゃうか)
 やはり彼女は優しい子だなと思う。
「わたしは初等部で教えたことはないから、これから話すことはあくまで間接的な『噂話』だ。これが事実だと思い込まないように」
 中川の授業中の口癖、
『今、目の前にある『歴史』を事実だと思い込むな』
 とそれは同じで有人は少しおかしくなった。

「松法さんは初等部一年の秋、休み時間に怪我をした」
 ンマニ島の女神像にもあった額のキズのことだ。
 結局三針も縫う怪我だったのに、担任はそこまでの怪我だと思わず、絆創膏を額に貼っただけで家に返したという。
「女の子が顔に傷をもらったのにその扱いか、ってお父様は怒って担任の先生と争われた。担任は菅園《すがぞの》先生、という」
「菅園って……」
 覚えがある名前だ。
「理事長の娘?!」
「いや。今の理事長の姪。当時はまだ前の理事長だったから、そこから見ればお孫さんだ」
 菅園教諭は前理事長の長男の娘。現理事長は次男で、この二人によって理事長の座が争われた時、現理事長派からはまつみの父が訴えたこの怪我の件も問題にされた。
「だから、前理事長系の職員の中には松法さんのことをよく思わない人もいて、職員会議では風当たりも強かった。私はそこから松法さんを守ろうとしたつもりだったが……とんだ道化だったな」

                   ※

 慶のいる部屋は緑陰寮一階の、舎監室隣の個室だ。
 悪さをした生徒がよく入れられるので「懲罰室」というあだ名があるが、慶は単に緊急避難で空いているから入っただけだ。
 マスコミはすっかりまつみの事件など忘れ、慶も寮生活は今月いっぱい、十一月からは自宅通学に戻ることになっている。
 ここに入るのは初めてだった。よく整理されているのが慶らしい。
「僕は、有ちゃんに言わなきゃならないことがある。一つ、謝らなきゃならないことも」
 狭い部屋の中、少し距離を空けて並んでベットに腰掛けた。
「僕は今、マーメイドティアーズの会員なんだ。『ヘルパー』だよ」
「え?!」
「嘘発見機に引っかかったとこまでは事実だ。で、そこで僕は説得されたんだよ」
 目的を吐かされた慶に、マーメイドのスタッフは人を騙すようなことは止めて、自分の目で幸せなイルカ&マーメイドライフを見ればいい、と勧めた。
「まつみが、ダイブした直後に書いた感想文も見せてもらったよ」

 
 わたしは今、これまでの人生の中で一番幸せな時を過ごしています。
 人魚様やイルカ様、その導きの忠実な僕のコーディリアさんたちは、わたしに希望を与えてくれました。いいえ、思い出させてくれたのです。わたしはそれを前から知っていました。
 わたしはこれから、人々に正しいことを教えていくことが出来ます。
 わたしでも地球のお役に立つことが出来ます。
 ドウワーさんやアクターさんのご指導に従って、今度こそ世界に正しいことを広める一員として、永遠に精進していきたいと思います。
 ありがとうございました。


「まつみがそこまで幸せだと思ったのがどういうものか、自分で確かめたくなった。退会はいつでも出来るって聞いたから試しに入ったんだ」
 言葉もなかった。
 伏せ気味に、だが時々しっかりと有人を見ては話し続ける。
「僕は、お前に遅れを取るわけにはいかなかったんだ。なぜなら……あいつが出て行く前の日曜日、僕はあいつに振られたんだよ!」
「……!」



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テーマ : ミステリ
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