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ピンクのイルカが夢を見た 4-12

 話がある、とまつみは言った。いつものように私鉄の駅で待ち合わせ、海辺を散歩する。
 まつみはいつも通り少し後ろを歩く。だがこの日は砂を踏んで踊ったり、貝殻を拾い上げたり潮風を感じて目を閉じたりはしなかった。
『慶。もう付き合うの止めよう』
 突然だった。何か怒っているのかと思って懸命に聞き出そうとした。
『慶に不満は全くないの』
 他に好きな人が出来たのでもない。ごめんなさい、とまつみは繰り返した。
『ただ、もうこういう風なのは止めたいの。違うと思う』
 混乱したまま、慶はまつみが本気だということだけは理解した。
『そんなに言うなら……わかった。だけど僕は待ってるから。いつでも会いたくなったら来なよ』
 白地の薄いフレアースカートの裾が、風で膝上まで舞い上がる。波の音を背に少し顔を赤らめて裾を押さえ、まつみは言った。
『そういうことは、ないと思う』
『僕は、待ってる』
 落ち始めた雨粒の下、最後に交わした言葉だった。


「わかるだろう? 僕は全く有ちゃんと同じだったんだ。あいつに惚れてるだけの……片思いだ」
「オレは違…」
「違わないだろうっ! 保健室のこと知ってんだ!」
「え」
「あの日……僕は隠れてパニックになってて、先生に見つかって保健室にかつぎこまれた。僕がベットに倒れ込んで間もなく、間仕切り向こうの隣に入ったのがお前だったんだよ! 有ちゃんだって、それだけあいつのこと思ってたんだろう? 下手な言い訳は聞きたくないよっ!!」
 違う。自分がショックを受けたのは別の理由だ。だが火に油を注ぐだけと口をつぐむ。
「あいつが戻ってきた時にやり直しにくくなるから、と思って、誰にも振られたことは言わなかった。もう、戻って来ないとわかって……警察の人にだけ言った」
 警察が強く疑ったのも当然だ。別れ話のもつれ、というパターンにぴたりと当てはまるのだから。
「入会してそろそろ一ヶ月になる。まつみの言うほどの幸福ってのは僕にはまだわからないけど、今、僕は人魚様を信じてる」
 嘘だ、とまじまじと顔を見た。
 彼は真顔だった。今までにない目の輝きもあった。
「ここでなら僕はもっと自分を磨いていける。そういう自信がある。ただ、有ちゃんたちに信仰を隠していることは卑怯な気がしたから、ちゃんと話すことにした」
「…まつみと同じ信仰を持つことで満足してるのか」
 慶の眉がぎゅっと吊り上がった。が、少しして静かに言った。
「それはある。あいつがイルカ様や人魚様に生まれ変わってたとしても、僕は、あいつにふさわしい男だと証明し続けたい」
 馬鹿げていると言うのは簡単だ。だが原動力となった思いを有人は否定出来なかった。
「マーメイドはまつみの殺害に絡んでいるのかもしれないんだぜ。その辺はどうなんだ?」
 慶に合わせ、努めて落ち着いて話そうとした。
「僕はそれはないと信じる。コーディリアさんと電話で直接お話しする機会があった」
 その時にまつみの事件とマーメイドの関わりを聞きただした。
「まつみはマーメイドの要請で、少しの間パロリンガンに滞在することになってた。だけど、約束の日まつみは来なかった。それ以上のことは何も知らないそうだ……お前たち誤解してると思うよ。マーメイドは人殺しをするようなところじゃない。利害が合わない人はいるだろうけれど、犯罪組織でも秘密結社でも何でもない。それと僕はスパイじゃない。おまえの部屋番をマーメイドでもどこにでも流したりは絶対にしてない。その辺はわかってほしい」
 わかったとうなずいてから尋ねた。
「来なかったからどうしたんだ?」
「はっ?」
「まつみが待ち合わせ場所に来なかった。それで、マーメイドはどうしたって言ってたんだ? どこかへ連絡したのか? 少なくとも寮には電話はかかってこなかったよな。女の子が行方不明になったんだから、普通急いであちこちに電話して、事故にでも合ってないか確認するよな」
 あ、という形に口を開けたまま、慶の動きが止まった。
「……それは、聞いてない」
「今度聞いてくれ。それで、オレに話さなくてもいいから、警察には伝えてくれよ」
「警察? ……警察は何度も事情聴取に来てるらしいから、コーディリアさんから伝わってるんじゃないのかな? 僕が知ってることぐらいは」
「伝わってるか伝わってないかわかんねえなら、話しておいた方がいいだろうが」
 何時に待ち合わせてどういう連絡だったのか。どの時点でまつみが行方不明だとわかったのか。
「……お前にだからってことで言ったんだ。警察にとなると全然話が違う」
 青ざめた顔。
「立輪さんにでも相談してみればいいだろ。あの人なら、悪いようにはしない」
 少し時間をくれ―苦しげに慶は手を振った。

                      ※

 話が話なので談話室ではなく、寮裏の遊歩道のベンチに男女分かれて腰掛ける。仲が良いとは言えない女子二人の反応はよく似ていた。
「どうしてそんな……ひどいじゃなぁい!」
「先輩への裏切りです!」
 拒否反応を起こした二人を有人は懸命になだめた。
「人魚の涙は警察には先輩は信者じゃなかったって言ったんですよ! だけど、実際は信者だったんですか? やはりそうなんですね。それで入信の感想文まで読んで桐生さんは黙ってたんですか? 平気だったんですか!」
 それで彼氏ですかー梨々香は氷のように冷たく言い下した。
「だからだよ。少しでもあいつに寄り添いたい。あいつのことを理解したかったから」
 答える声には張りがない。
 慶はいつになくしょげかえっていた。自分にも教団とにも良かれと思って有人に事実を話したのだが、マーメイドのリーダーたちから強い叱責を受けたという。一部の教団イベントの出席を禁じられ、ダイブゲートセミナーの再受講を命じられたそうだ。まつみの行方を確認したかどうかについては、コーディリアに問合せるとだけ答えたという。
 そんな肩を落とした姿ながら、きっちりとこちらを見据えて言った。
「有ちゃん。僕は話したんだから、お前のことも話してほしい。お前はいったい何者なんだ?」
「ごめん。オレからはまだ言えない」
 怒りをぶつけられる前に慌てて加える。
「知りたかったら立輪さんに聞いてくれ。島で言ってたのをお前や梨々果は覚えてると思うけど、警察は、オレのことも調べ上げてるはずだから」
「あたしたち、ずっとまつみのことを追ってきた友だちじゃない? それでもそんなに言えないの?」
 こくん、と頭を下げる。
「たいした話じゃねえんだけどよ……。こっちに来た時、ふっきれたと思ったのに、まだ駄目だ。オレ臆病でさ」
 自嘲する。
「……前はそうじゃなかったんだけど、『あれ』からずっと恐がりになった」
 立輪には自分から、慶たちになら話してもいいと伝えておくと言った。
「いい。僕は有ちゃんから直接聞きたいから。しゃべれる時まで待つよ」
 責められるより辛かった。



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テーマ : ミステリ
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