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ピンクのイルカが夢を見た 4-13

(うわあっ!)
 三歳のまつみは、少女になってからよりも強い視線を持っていた。
 それでいてあどけなく明るく、その年頃特有の天真爛漫さで有人の目を奪った。
 遠くに畑を臨む草っ原の中、幼いまつみは両手を大きくひろげて笑っている。
 この子が十七歳で人生を終わらされてしまったなんて断じて許せない。
「この頃まではあるんだけどぉ、後はほら!」
 梨々果が布袋から出した本の山を羽美子が次々と崩していく。
「『親に捨てられた』と言ってたのもわかるかもぉ」
 並べでいるのはまつみの両親の著書。
 エッセイ風の本には自宅の風景や家族写真もわりあい載っている。だが、まつみが出てくるのはせいぜい幼稚園まで。あとは姉しか映っていない。
「お父さんが引っ越して、まつみは寮に入ったからとかじゃねえのか?」
「お父さんの岡山行は先輩が小四の時。寮に入ったのは中学からです。それに、私先輩から聞いたんですけど、お姉さんも高校は寮のある東京の学校で過ごしたそうです」
 姉妹二人とも普段は岡山の自宅にはいなかったのに、小学校へ上がってからまつみの写真だけがない。
「ひどいです!」
「ひどいよねぇ~」
 言い合うのを見ると、梨々香と羽美子もいいコンビになったと思えなくもない。 
 だが何故なのか。
 健全な食生活に健全な運動、結果健全な成長。まつみは正に著書にある見本ではないか。
「ヤバ。そろそろ時間かな」
 慶が腕時計を見る。もう少しで門限だ。
 じゃあねえと羽美子がぱたぱたと帰って行き、慶も緑陰寮の方に手を振って去る。
「……」
 黙ってこちらを振り返る梨々香に追いつくと、大黒様かサンタクロースのように背負っていた布袋に手を延ばしてこちらで持つ。
「ありがとうございます」
 何とか聞こえた小さな声。
 白雪寮の玄関で、慌てて帰ってきた他の生徒とぶつかりそうになって、ひょいと袋を回す。
 四ヶ月ほど前、この時間に自分はまつみを見送った。
 あれほど「裏切り者」の存在が恐かったのに、慶に告白されてからふっと楽になった。
 もちろん彼は自分の命まで狙ったのではない。牙で食いちぎり、鋭い爪で八つ裂きにするようなことはしなかった。
(あのひとは、したけれど)
 自分が壊れるのか壊れないのか、もうよくわからない。
 今はただ、まつみをあんな目に合わせた犯人を見つけ出すまでは、ここで耐え抜く。

                 ※

 どうして連続でこういう話を聞かなければならないのか。
 ことあるごとに説得して、慶はやっと立輪に連絡を入れた。その結果もっと大きな玉が転がり落ちてきた。
 地元警察署の会議室。明るい秋の日が差し込む中に有人は座る。その向こう、
「ボクもマーメイドの信者だったんだよ」
 しょんぼりと言う立輪の隣に中河原が付き添っていた。

「ボクが一番初め、君たちの夏休み前にダイブした。仕事で何度も行って、話を聞くうちに勧誘されたんだ。そういういきさつだからボクは嘘発見機は受けてないよ」
「向こうは警察内に信者が欲しかったんでしょうよ。彼はいいタマだったわけ」
 中河原が軽く言う。有人は絶句したままだ。
「警察は規律が厳しいから―それ自体は当然だと思うよ―いつの間にか生活の何から何までものすごく神経質になっていた。マーメイドのアクターと話してて、自分が本当に感じてることを隠さないでイルカのように自由に歩んでいけたらどんなにいいだろう、って思ったんだ」
 忘れかけていた夢を見いだした気がした。
「……ボクは子どもの頃から信仰を持っていた。家族ぐるみでさ。『大日本蓮華陽会』って知ってる?」
 首を傾げると、日本人なら普通は知ってるんだけどねと苦笑いする。
「ボクは信仰の水の中で育った。だけど警察では、中立性を保つためで悪くはないと思うんだけど、宗教の話をすることはまず許されないんだ。多分、それがずっと息苦しかったんだと思う」
 遠い目をする。
 告白のせいか、前に図書館で会った時よりは立輪の頬は健康的だった。
「でもね、今思うと……。パロリンガンに行ったのはマーメイドの指示だった。会に偏見を持っている君たちが、誤解を大きくしないように行動を見張ることと、それとなく軌道修正すること」
 勝手な海外渡航は職場のルールに反するとはわかっていたので悩んだが、「神」の命令には従わざるを得なかった。ろくに準備もしないで飛び出す羽目になって港で立ち往生もした。「工場」がマーメイドの友好団体だということだけは聞いていたが、現地で話を聞くうちに疑問が大きくなるのを抑えられず、そこから矛盾に苦しむことになった。
「それでもボクは信じてた。松法さんの事件からは外されて、中にいるからこその情報があまり手に入らなくなって困ったけれど」
 そうそう警察は甘くないわよ、と中河原がうそぶく。
「じゃ、オレが白雪寮の何号室に居るかを流したのは、立輪さんですか?」
「へっ? いや、それはボクは聞かれてない。言ってないよ」
(立輪さんでもない……?)
「今回のパロリンガン島への同行予定者はコーディリアさん本人だと入境許可証《パーミット》から知ってたけど、君たちにはわからないと言った」
「えっ!」
「それはマスコミにも伏せてあるんだから、高校生には言わない方がいいんだけどね」
 中河原が突っ込む。
 慶から連絡を受けた時は困った。そしてその頃ちょうど、
「松法さんの携帯の記録が解析されたんだ」
「壊れてたんじゃなかったんですか?!」
「壊れてるよ。データのサルベージ会社ってのがあってね……」
 ダメージを受けた媒体から技術を駆使してデータを拾い出す。ようやく出て来たまつみの携帯データには、姿を消した日の通話記録もあった。
「午後八時十一分。通話先は居軽絵麻《えま》の携帯。それ以降の記録は見つからなかった」



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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