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ピンクのイルカが夢を見た 4-15

 坂上真由の兄、日野篤高《ひのあつたか》が警察に連行された。世間話にしか応じなかった彼だが、三人の前でなら話したいと言い、有人と慶に梨々果は中河原の待つ署に急いだ。
 今度は日が入らない小さな会議室。
 立輪に連れられ、部屋に入るなり有人は言った。
「あなたは最初から全部知っていたんだ」
「君を騙せるとは思っていなかったよ」
 チー・シャオヤン、こと日野篤高は日本語で静かに返した。

 
「一目見た時に、あなたは日本人だって思った。日本人に見える香港人も、台湾人にしか見えない日本人もいるから当てにはしなかったけれど。あなたが電話でマンダリン《北京語》を話すのを聞いて、はっきりとわかった。英語はパーフェクトでオレより上手いけれど、マンダリンには日本人らしいクセがある」
 中国人のふりをした日本人だ―軽く首を振ってから言った有人に、篤高が返す。
「君がチャイニーズだってこともすぐわかった。なぜかわからないけれど、そう感じた」
「香港人《ホンコニーズ》。オレは十四まで香港で育った」
 訂正してから腰に手をやる。
「日野さん? 世界で一番多いのに化けるなんて、馬鹿げてるとは思わなかった? どこに行ったってチャイニーズはいる。フランス人や日本人にはバレなくたって、オレらはわかりますよ」
「数が多いから無難だと思ったんだけど。君のいう通り、綱渡りが多かったよ」
 慶と梨々果は日本語を話す彼をあぜんとして見ている。そちらに向かい済まなかったと小さく謝ってから、
「妹は可愛い子だったよ」
 つぶやくように言った。
「六つ下の、年の離れた妹だった。誰からも好かれて誰をも好きになる子だった。まだ幼稚園の時、あの子が遊んでいる砂場に友だちと通りかかった。わたしがランドセルを背負っていたんだからあの子は四つ、わたしが五年生の時だ。真由はわたしたちの方を指差して、『一番格好イイのがうちのお兄ちゃんだよ』って言ってくれた。あれはうれしかったな……。馬鹿げた話だけどね」
 目だけがやさしくゆるむ。
「あの子は幸せなお嫁さんになることを夢みていて、職場恋愛した坂上さんもいい男だった。式での満面の笑顔や、子どもみたいにブーケを振り回した白いレースの腕を今でも思い出す」
 数日後。勤務先の米国に帰っていた篤高は、父親から事故を知らされた。
 「その時、わたしは前の妻との離婚訴訟でトラブルがあって、モルディブには行けなかった。父には罵られたけど、どうしようもない。ダイビングで行方不明十何時間と言ったら、見込みがないのは明らかだ。息があるのなら何を放り出してでも行くけど、死んだなら出来ることは何もない」
 慶がきゅっと眉を上げたのを有人は見た。
「妹は行方不明のまましばらくが過ぎた。父はいろいろ調べて、モルディブでの遭難者が国境を越えてパロリンガン諸島に流れ着く可能性に行き当たった。事故から半年ほど後、父は初めてパロリンガン島に行って、そこで『中国人』ダイバーの遺体が流れ着いたとの噂を聞いたんだ。定年までは少しあったけれど、退職してパロリンガンに通い、ンマニ島で遺体の漂着があったことを確認した」

 遺体は「工場」が引き取ったと聞いてそちらを訪ねた。工場には遺髪と皮膚標本など、身元確認に必要なものが保存してあり、父がそれを日本警察に持ち込んで真由の死が確認された。
「『工場』社長の高山は平然と遺体を実験に使って海に沈めたと言った。父はあちらこちらに非道を訴えたが、どうにもならなかった。何の罪にもならないからだ」
「そんなのおかしい!」
 言った梨々果に立輪が説明する。
「日本でいう『遺体損壊罪』がないんだよ。あの国自体にはあるんだけど、自治州では適用されないという決まりがあるんだ」
 山岳地方の少数民族に鳥葬の習慣があることが理由らしい。

『我々は生命の神秘を信じている』
『自然の恵みは感謝を持って大切に使わなくてはならない』

 遺体も含め―
 高山はそう言い切ったという。
「『工場』は人体実験をしていたんですかっ?」
 篤高は何も言わず有人に小さくうなずいただけ。
 篤高の父は工場で騒ぎを起こして強制帰国になり、以後入国を禁じられた。
「代わりにパロリンガンに行くように言われたけれど、そうしなかった。『工場』は真由を殺したわけではない。あれはあくまで、あの子の運命だった」
 うつむいた顔。
「幸せの頂点で天に取られた、そうでも思う外ない」
「……」
「遺体は見つかっただけでもうけもの。死亡確認が出来たことには感謝すらした。ただ、父に……あんなに真由を可愛がっていた父に、あの子の骨を返してやって欲しかった」
 真由の短大受験の日、それが篤高の誕生日でもあることをすっかり忘れていた父。自分が老いた時真由が世話をするのでは可愛そうだ、と早々と老後の施設を検討すらしていた。

「調べたところ、『工場』には世界各地の犯罪組織も絡んでいた。それはそうだろう? 死体を簡単に処理してくれるんだからね。バックにあるマーメイドティアーズは、日本はともかく諸外国の政治家ともつながりがあった。居軽絵麻のかじ取りも上手い。マーメイドの施設とはせず、高山たちの信徒籍を外して書類上は無関係な形を取っている。ちょっと騒いでも握りつぶされるだけだろう。ならば内部から探ろう、とわたしはマーメイドティアーズに入会した」
 最初から身分を証し、完全に信じているわけではないが、父のヒステリーを聞いていると逆にこちらの方が正しいように思えたので勉強したい、と申し込んだ。
「正直風にやると、嘘発見機を通らないルートでいけるというのも事前に調査ずみだったからね」
「そうか」
 立輪がぼうぜんとつぶやく。彼と違うのは、篤高がそれを狙って成功した点だ。
「居軽についても徹底的に調べておいたから、お気に入りになるのも簡単だった。『工場』に近づく人間を見張るために、島でボランティアをやっているグループに近づくように命じられ、手伝いの形でそこに入った。北京駐在時代に覚えた中国語を使って中国人に化けた。そこで初めて、わたしの計算にないことがあらわれた」
 ふっ。仰いで笑う顔が急に少年めいて見えた。
「シモーヌと恋に落ちてしまった」
 活動の中で急速に二人は親しくなり、休暇に本土の教会で結婚式を挙げた。
「それまでわたしはまともに恋愛をしたことがなかった。こういうと傲慢に聞こえるだろうが、若い時はどういうわけかもててね。前の妻とも向こうに押されて一緒になった。シモーヌとは……もう駄目だろうな。彼女の気性では、わたしがついた嘘は絶対に許せないはずだから」
 大切そうに目で空をたどる。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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