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ピンクのイルカが夢を見た 4-17

「中河原警部補もマーメイドの信者です!」
 梨々果はそう主張した。
 有人も見た、部屋を出る直前の彼女の笑い。それは刑事が犯人を逮捕した喜びというようなものではなかった。むしろ企みが上手くいった時のような笑み。
「立輪さんは、後から入った人は先に入った信者のことはわからない、って言ってました。桐生先輩が瀬賀先輩や立輪さんのことを知らなかったように、立輪さんも中河原さんのことを知らないのかもしれない」
 立輪も信者だったことは中河原から二人にも伝えられ、慶はぼうぜんとし、梨々果はしばらくその場で怒り狂った。
「だけど、そんな……それで中河原さんが何を得するって言うんだ?」
 疲れた顔で慶が言う。
 日曜日、人気のない寮食堂で三人は隅の机を囲むように座って話す。
「真犯人を隠すため」
「それだけどシャオヤンさん……いや日野は犯行を自供しただろう? 何のためにやってもないことを白状するっていうんだ?」
「日野さんも、犯人をかばってるとしたら?」
 彼は「二重スパイ」として人魚の涙の中にいた。実はマーメイド側のスパイであって、同じく信者の中河原との間で芝居を打った―

 そこまでマーメイド信者だらけだろうか? と有人は思う。
 だがまだ何か隠れている。先ほどからニュースサイトをこまめにチェックしているが犯人逮捕の報が流れて来ない。篤高逮捕はまだ公表されていないのだ。
「だったら誰をかばってるんだ?」
「当然、マーメイドの人。その辺は桐生先輩の方がくわしいんじゃないですか」
 慶の顔がさっとゆがむ。
「僕は……マーメイドティアーズは殺人はしないと信じている。そんなもの、
教義のどこにもない」
 行方不明になったまつみを、教祖居軽が探しも通報もしなかったと気付いたことがショックだったらしい。

 完全に事件が解決するまでは信仰のことは保留にしたい。支部にも出入りしないし連絡も取らないー慶は有人と梨々果に宣言した。彼には痛みを伴うことのようで、逆にそれほど人魚の涙に取り込まれているのかと有人は空恐ろしくなった。
(慶は、ぼくよりもずっとしっかりしてるのに)

『あなたは自分の心が汚れるのが恐いだけのエゴイスト!』

 思い出すだけで未だに胸が抉られる言葉。
 人魚の涙は人の弱みを攻撃するのが上手い。
 慶は深く苦悩していたからこそ、彼らの手に落ちたのかもしれない。
 けれどー
『勧誘が巧妙で、歴史が長いわりには人魚の涙の信者数って少ないんですよ。何故だと思いますか? 信者が定着しないんです』
 一年以内に辞める人間が多く、超えても三年以内に辞めるのが大多数、とは梨々果の説明。だったら慶は大丈夫だ。
 けれど、まつみはー寂しい顔で笑うあの子は、もう戻ってこない。

「……かばうとしたら、コーディリアかな」
 有人の中で消えない疑い。
 柱のような女。感傷的に演技しながらも、感情が感じられなかったー
「有ちゃん! まさか」
「あの人が一番、事件直前のまつみに近かったんだ。もっとも奴が真犯人かどうかはわからねえが。女だろ? 大柄だとは言っても、首締めるだけの力があるかどうか……」
 不意に、断末魔にもがくまつみの姿が思い浮かんで立ちつくした。
 十七年分の命を一瞬で絶ち切ろうとする犯人に必死で抵抗を―
 息が、苦しい。
「……ちょっと父さんに相談してみる! メール打つから」

「頼りにしてるんですね。お父様のこと」
「もちろん!」
「……親は選べませんから」
 携帯を操作する有人に、梨々果の言葉が皮肉に響く。
「オレは選べたから」
 へ、と小首を傾げる。
「今の父さんは、一年ちょっと前に母さんと再婚したんだ。うちの母さんって面食いでよ、ちょっと顔が良いとすぐ舞い上がっちまうから、ロクでもない奴を紹介された時は蹴飛ばしてやってたんだけど。父さんはすごく気に入ってる」
「ほんとのお父さんじゃないんですか」
「そういう言い方はされたくない。オレの……生物学上の父親は、四つの時に死んだ。だけどその父さんも、今の父さんもどっちもニセ物じゃねえから」
 首を落としたままになった梨々果にまた始まったと苦笑しながら、作業を続ける。
「ちぇっ! 今パソの前に居ねえのか。待つしねえな」
「電話すりゃいいじゃん」
「父さんはしゃべれないんだよ。生まれつきね」
 ぷるるるるるる。
 慶に返した時、携帯のバイブが鳴って慌てて耳に付ける。
「ちょっと待って」
 慌てて食堂を出る。
「……高くつきますよ」



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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