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ピンクのイルカが夢を見た 4-20

「塩矢さんっ!」
 叫んだ梨々果がそのまま海に入り、ぱちゃぱちゃと進むと泳ぎ出した。見ていた慶だが、梨々果が間もなく海中でじたばたしだしたのを見て、
「ンの馬鹿っ!」
 上着を脱ぎ捨てて海へ飛び込んだ。
「足に掴まるなっ!」
 梨々果にしがみつかれ慶はわめく。と赤い鱗の尾がぴちゃりと水面を叩いた。
 横から伸びた手が梨々果の両腕を慶から引き離し、人魚の腰に導いた。左手で慶に岬を指差すと、尾を上下させて泳ぎ出す。もともとそう陸から遠いわけではない。三人は間もなく寄ってきた警察潜水夫にも助けられ、すぐに岩場に上がった。
「スノーケル使ってた」
 有人はしれっとそれを見せた。尾の中にしまえるようになっているのだという。
「さっきは岩の向こうに隠れてやってたけど、もう暗いから普通にやっても目立たないと思ってよ……立輪さんの演技指導は上手くいったかな? 目が演技出来ないと思ったから、とにかく下向いてぼそぼそ話せって言ったんだけど」
「何?!」
 コーディリアが逃亡を計ったら、立輪が寝返るふりをして身柄をおさえる―警察の計画の内だと有人が明かした。
「慶、そこの上着! 違う、自分で着るな! 梨々果にかけてやれ! ったく日本人はレディーファーストのかけらも知らねえんだから」
 ぶるるっと背を丸める梨々果に慶の紺色の上着がかけられる。
「…悪ィ。オレを助けに来てくれたんだったな」
「お前を助けようとした梨々果ちゃんを助けに行ったんだ。……二人はとても手に負えなかった。まだまだ修行が足りないね、僕も。……助けられない」
 有人も梨々果も無言で暗い海を見る。
 警察艇が二艘前後して戻ってきた。先のボートに立って立輪が叫ぶ。
「中河原警部補、鍵みたいです~!」
「貸してっ!」
 ボートが止まりきらないうちに手の平大の木の塊を投げ渡すと、立輪はきりっと敬礼した。リレーで警官に「鍵」が手渡され、何人かが洞窟内に走る。人の顔もよく見えないたそがれの中、両腕をつかまれて男が引っぱり出されてきた。老人、いや初老だろうか。足元がふらついている。
「日野和真《かずま》ね」
 それがどうしたと男は怒鳴った。殺人容疑で逮捕する旨を伝え、中河原がボートの一つに彼を押し込む。もう片方、立輪が乗ってきた方のボートには、手錠で繋がれて座っているらしいコーディリアの姿があった。
「コーディリアさん」
 波が洗う岩先、ぽつんと立った羽美子は泣きそうだ。
「大丈夫よ。祈りと行動に励みなさい」
 コーディリアの声はあくまで威厳をたたえていた。
「あの子は利用されたのね。押さえてれば、あなたたちの行動が筒抜けだからって」
 中河原がつぶやく。
 警察は篤高が犯人だとは最初から思っていなかった。
「アリバイがあったから」
 彼は犯行当時パロリンガン諸島にいた。自供したのは父が逃げる時間稼ぎのためだ。自分のシロを警察が掴むまでの短い間でも、と思ったのだろうが、警察はとうにそれくらいおさえていた。篤高を確保したところで和真をと向かったところ、こちらは警察が鳶をさらわれた。コーディリアが逃がして匿ったのだ。
 おそらくは遺体の状況から、コーディリアは動機と犯人の見当がついたのだろう。真犯人が捕まれば自分たちが「工場」でやっていることが露わになると、呉越同舟でかばったのだ。

 警察はここに和真が隠れていることを推測していたが、本当に居るかを確認出来ず逮捕に踏み切れなかった。コーディリアと信者たちを洞窟奥から引き離すために、人魚の芝居を打ったのだ。
「日野のアル中はひどくなっているみたい。あの女はそれでコントロールしたんでしょう」
 有人が人魚の尾で座ったまま声をかける。
「中河原さん、話は後にして! 着替えのあるオレはともかく、この二人早く何とかしないと!」
「ごめんなさい! 岩場を登るより楽だからあなたたちも次のボートで送るわ。待ってて。ねえ! タオル持ってるの誰? それと着替え……」
 警官たちに声をかけ始める。二つのボートは向きを変え、動き出した。
「あの人が、本当にまつみ先輩を殺した人だったんですね」
「……」
 三人はそれぞれ寒さに耐えながら、墨色の海の上、岬の向こうに消える白いボートを見送った。

「わっ! こ、これ何ムシって言うんだっけ! 除けてくれっ!」
 夕闇に色もわからなくなった尾を左右に振る。
「フナムシだよ。……男の顔でその尾っぽパタパタするの妙だよ。早く脱げって」
「良く出来てる分外しにくいんだよ! 泳ぎやすいけどね。警察がツテでほんとに撮影で使う奴を借りてきてるんだ……はっきり言わないけど、エロビデオみたいだぜ!」
 梨々果がそっぽを向く。岩の上で「脱皮」する有人を手伝いながら慶はぼやいた。
「海の方の岩にはコレいなかったのか?」
「いたよ。だけどあの時は人魚だったんだ。人魚が海の生き物を恐がる訳ねえだろ」
 慶も梨々果も少しの間動きを止めた。
「だったらまた今すぐ人魚になれって! そしたら平気だろう?」
「駄目! もう駄目だって!」
 ひょい。梨々果がつまみ上げたものを有人の尾に落とした。
「うわああああああっ! カ、カニィ……!」
「…ヤドカリです」
 絶叫に警官が寄って来て、慶は大きくため息をついた。
「……馬鹿なことしてると冗談でなく風邪でぶっ倒れるわよ。はい!」
 中河原が少しばかり乱暴に大判のタオルを落とす。
「ありがとうございます。風邪……ああ、そうか…………慶っ!……」
 有人はすがるような目で慶を見た。
「有ちゃん、何だ」
 声の変化に慶も居住まいを正す。だがとたんに大きなくしゃみをする羽目になった。
「そういうこと…………」




(第4部完。エピローグに続く)

 目次 

テーマ : ミステリ
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