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ピンクのイルカが夢を見た エピローグ1

 有人くん
 警察の方―中河原さんと立輪さん―から報告のメールをいただいた。
 人魚の涙の会員さんがこう言っていたそうだよ。

「誰が演じてたとか、そんなことは問題じゃない。あの時確かにこの目で『本物の人魚』を見ました。……奇跡に出会ったんです。ありがとうございます」

 名演技だったようだね。見られなかったのが本当に残念だ。
「助演男優賞最年少ノミネートの明星に払うギャラはとても予算がつかないので、捜査協力のボランティアということで」
 中河原さんが書いてらしたが、有人くん、ねだったんじゃないだろうね(笑)
 とにかく、お疲れさま。
 やっとゆっくりあの少女の冥福を祈れるね。

 追伸
 わたしの方も少し休ませてくれ。
 わたしはまだ父親としては新米なんだぞ。
 
                                 成雨太

                     ※

 海浜公園の植え込みの横に、白やピンクの愛らしい花が供えられた。
 線香から立ち上る匂いが潮の香りと混ざって風に薄く広がっていく。まつみの両親、慶、梨々果、有人の順番で手を合わせる。
 戻りかけた時慶が言った。
「松法さん。少しお話があるんですが」
 梨々果と有人はさっと頭を下げて向こうへ去る。展望台のベンチまで来てから慶は話し始めた。

『わたしには、秘密の夢がある』

「みな美さんが出て行く時に言った『秘密の夢』って何だと思いますか」
 あの教団の教義が何かじゃないのか。父、松法秀英はそう言った。
 自分たち三人の想像でしかないけれど、警察の人に話したら可能性は高いのではと言われた。そう前置きをして。
「みな美さんは、『一度風邪を引いてみたかった』んです」
 口を小さく開けたままの両親に、慶は淡々と続けた。
「事件の後、おじさんおばさんのご本を読みました。松法式健康法を実践すれば、風邪一つ引かない健全な生活を送れる。子どもが風邪を引くのは親の恥、怠慢だ。おばさんの料理の本にはそうもありましたね」
 母、さとえが戸惑ったようにうなずく。
「実際まつみ、いえみな美さんはおじさんたちのその健康法を忠実に実行していました」
 寮生活でも部の合宿中でも、毎朝黙って松法体操を続けた。食事の量や時間も集団生活の中で出来る最大限で松法ルールに合うよう調節した。
「その成果はありました。みな美さんは初等部以来、額の怪我の時を除いて無遅刻無欠席だった。実際、僕は彼女が風邪を引いたところなど一度も見ませんでした。だけど、風邪ぐらい引いたっていいじゃないですか!」
 慶は声を荒げた。
「足を切っていいかとか、癌になっていいとかいうわけじゃないですよ! そんなことくらい……」
「風邪は人間のエネルギーのアンバランスの現れだ。万病の元というように、そこから整えなければ……」
「背が小さくたっていいじゃないですかっ!」
 今度は二人とも絶句した。

「おじさんたちの著書の中には、お姉さんの写真はずっと出て来ますが、みな美さんは幼稚園あたりを最後に出てこなくなる。何でですか?」
 松法式健康法にはこうもある。親の愛情が十分で、食事も何も世話がきちんと行き届いていれば少なくとも標準的体格には必ずなる、と。
「だけどあいつは、いつも一番クラスで背が小さかった。小学生にもなれば、年を考えれば標準より大きいか小さいか、写真からでも見当が付くかもしれない。あなたがたはあいつがチビだってことを隠したかった。違いますか」
 二人は何も言わなかった。たださとえが目元をハンカチで拭った。
「あいつ、ちっちゃくて可愛かったじゃないですか……!」
 さとえから嗚咽が漏れる。両親をむち打つのが目的ではないと思い出し、慶は報告のように続ける。

「……みな美さんは皆から『まつみ』と呼ばれていました。あいつみたいにおとなしい、控えめな子には普通はあだ名はつきにくいです。せいぜいみな美ちゃんあたりでしょう。だけどなぜそう呼ばれていたか―本人が『まつみ』って呼んで、って言って回ったからです」
 呼び名自体は初等部時代についた。「みなみ」という名前の子が二人いたので、それぞれの姓を付けて「まつみ」と呼ばれるようになった。
 高等部まで続いたのは本人の努力の成果だった。
「あいつは自分が『松法式』教祖の娘にはふさわしくない、と恥じていたんじゃないでしょうか。だから『松法さん』と呼ばれるのを避けて、あだ名で呼んでもらってた。成績のことも……僕が直接聞いた話ですが……お姉さんは頭が良くって、薬学部に入っておじさんたちの仕事の手伝いが出来るようになった。でも、医学部に入ることを望まれた自分は、とても期待に答えられないって……」
「医者の婿を取ればいい、と言った」
「知ってます。僕だって医学部に入れるか一瞬考えましたから。内部進学なら学年三位までに入ってなきゃならないから、すぐに僕でも駄目だと気付きましたけど」
 はっとしたようにこちらを見る秀英の目に、慶は顔を取り繕い直す。
「梨々果ちゃん……楡崎さんによると、みな美さんは『自分は親に捨てられた』と言ってたそうです。お姉さんは地元の大学に呼んだのに、あいつはずっと寮に入れっ放しだったのもそのせいですか?!」
「いいや。もっとひどいことだ、おそらく君は非難するだろう」
 秀英はそれは低い声で言った。



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