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ピンクのイルカが夢を見た エピローグ2

「あの子が額に怪我をした時、初めこの学園を止めさせるつもりだった。女の子の顔に傷を付けて、絆創膏を貼っただけで返す学校など我慢出来なかったからな。学校との話し合いの結果、中高等部の寮に三年間、松法式のメニューを実験的に入れることで手を打つことになった。あの頃こちらでクリニックをやっている頃は、まだ生活も楽ではなかった」
 当時はまだ松法式の信奉者は少数で組織化も出来ていなかった。世間では医者は金持ちだなど子どもまで考えているが、病気になる前の健康指導が中心なら、収入の手は少ない。
「食事指導代として安定した収入が入るのはすこぶる魅力だったからな」
「まつみを金で売ったんですか!」
「そうも言える。もっとも、当初の私の怒りに反してあの子は転校したがってなかったし、上の子の進学資金も含め、何をしてでも家族を養っていくことは私の義務だった。……君のような高校生に理解出来るとは思わないが」
「そうですね」
 感情のない声で返した。
「ただ、私は決してあの子の前で話したことなどないのだが……どこでわかったものか」
「……さっきいた塩矢ってのは今回すごく頑張った奴です」
 英語だけではなく、中国語も駆使して情報を集めた―船の中でも商人たちの情報交換を聞いて「工場」の噂を知ったのだ。
「別名を黄有人《ウォン・ヤウヤン》とかアレクセイ・S・黄とか言って香港映画の子役スター、おっとこれじゃ機嫌損ねるな……『美』少年スターやってたそうで」

 篤高は北京駐在中に有人がゲスト出演した大陸との合作映画を見たらしい。旅芸人の息子役ですぐ死んでしまう設定なのだが、
『アップは多かったから、覚えてたのかな?』

「あいつ言ってました」
 役者は風邪引いたから今日は撮影出来ないなんて訳にはいかない。健康管理も仕事のうちだ。漢方や太極拳など色々教わって試してきたが、今回松法式健康法の本に眼を通して残念に思った。
『よく出来てる。役者の仕事してる時にこれを知りたかった』
 秀英がうなずいた。
「……みな美さんは、おじさんたちのことを自慢に思っていた。これは間違いないです。僕もご両親の活躍を彼女から何度も聞きました。グルメ時代で健康としての食事にスポットが当たらない時期から、食生活の大切さを伝えていってたんだとか……。だからこそ松法式の教えを忠実に守ったし、それに『ふさわしくない』のを恥じた」
 背が小さい故に、姉とは違い父の仕事のイベントに一度も出ることを許されず、遠い学院の寮で隠れるように過ごした。
「マーメイドティアーズに出会った時、みな美さんはおそらく……ここでなら、おじさんたちのようになれる、と感じたんじゃないでしょうか」
「どういうことだ」
「まだ人が知らない、抵抗も反対も多い『正しいこと』を伝えられるってことです」
 マーメイド入信時の感想文について話す。

 わたしはこれから、人々に正しいことを教えていくことが出来ます。
 わたしでも地球のお役に立つことが出来ます。
 ドウワーさんやアクターさんのご指導に従って、今度こそ世界に正しいことを広める一員として、永遠に精進していきたいと思います。


「……」
「みな美さんはまたしても頑張った。イルカのように『自由に』遊べなくては『ならない』と、インストラクターが首をかしげるほど熱心に水泳に励んだりとか。これ、すっごい矛盾なんですけどね」
 初めて笑顔を見せる。すぐに引っ込めて。
「あいつのマーメイドへの信仰は、それこそ風邪みたいなものだったと思います。何か引き金があれば壊れる。そのきっかけは、たまたま顔のキズと背で選ばれてしまったパロリンガン行きの日に訪れました」

 乗り換え駅のすぐ改札前に、水族館の宣伝モニターがあった。
「僕は覚えていなかったけど、楡崎さんが気付いて、警察を通して水族館に問い合せました。その月のモニターはイルカ・アシカショーの特集で、中でちらりとこんなことを言っていました」

『イルカは平和な生き物だ、と言われていますが、一方オスがメスや子どもをいじめ殺してしまうなど、実は残酷なところもあるのです』

「マーメイドの教義は杓子定規で―白黒はっきりしてると魅力もあるんですがね。それは置いといて。イルカ=正義という単純さは間違っている、そんなごく簡単なことにみな美さんは気付いたんです」
 だからと言ってイルカが「悪」なのでもない。仲間を襲った話以上に、同族や人間までを救った話もたくさんある。死んで沈んだ仲間の回りに集まり数日に渡って悼むように叫び続ける観察結果もある、と梨々果が教えてくれた。
「みな美さんは居軽に断りの電話を入れました。彼女が最後に聞いたことは知ってますね?」

『イルカは風邪をひきますか』

 イルカは、風邪ひとつひけないことからの自由の象徴でもあった。コーディリアの答えに、彼女は「イルカのように『自由に遊ばなくてはならない』」ことの実態を悟った。
「おそらくまつみは、寮に帰るつもりでいたでしょう。ただその前に、生まれて初めての家出で、ちょっと冒険をしてみたかったんです。夜の海辺の公園で静かに座って、雨が降り出すと公衆便所に逃げ込みました。その時思い出したんです。二ヶ月ほど前に見た映画『華の雫』、ご覧になってますか?」
 二人とも否定した。
「映画の中で、ヒロインのお嬢様は雨の中思いを寄せる将校を待ち続けるんです。翌朝、将校が家を訪れた時は高熱で気付くことがなく、将校はそのまま戦場へ行った……。まつみはそれで思いついたんでしょう。雨に濡れれば風邪をひける、って」
 あいつは恥ずかしがり屋だったから、そんなことが夢だなんて人に言えなかったんですよ、だから「秘密の夢」―慶は思い浮かべて微笑んだ。
「雨に濡れて、すぐに『風邪』にならないと、浜辺まで行って海に転がってみる。夜も遅く風が冷たくなる頃には、彼女は立派に風邪を引き始めていました。あいつのことだから、きっと一生懸命頑張って風邪をひこうとしたんでしょうね……」
 おだやかな笑いを浮かべた慶の口が、ふるっと歪んだ。一つ胸で息を吸って続ける。
「あいつは風邪を引くと体の自由がきかなくなること、とても心細くなること、一人っきり、六月の夜の野外でそんなまま過ごすとただじゃすまない状態になることも知らなかった」
 何しろ経験がなかったから。
「体力がなくなっていたまつみが、終電が過ぎたことに気付かず駅に戻っていった時……運命が、あいつを見放しました」
 ここから後は報道されている通りと慶は簡単に告げた。



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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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