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ピンクのイルカが夢を見た エピローグ3

 日野和真は、買収して協力者としていたパロリンガンリゾートのスタッフから「女神」の再訪の情報を手に入れた。

 犯行の当日。
 和真は航空会社スタッフを装って人魚の涙に電話をかけた。電話を回された居軽・コーディリア・エマは、だがすぐにそれが前々から『嫌がらせ』(彼女曰く)をしていた彼だと気付いた。
『一高校生のことなど知らない。あの子はうちとは縁がなくなった。嘘だと思ったら海辺に行ってみなさい』
 私は何でも知っているー駅名を教えるとコーディリアは豪語したという。
 保護者代わりにまつみの携帯のGPSを確認出来るサービスに入っていたのだから、それを知るのは簡単だったろう。
 和真は既に娘を「奪われた」憎しみで狂っていた。だから夜を徹して浜辺を探した。
 電気の消えた駅前で崩れかけていた病気の少女を、和真はとうとう見つけた。問いただしても、まともに受け答え出来るはずもなかった。和真は取り調べで、
『酔っぱらっているように見えた』
 と表現している。娘を失って以来アル中気味だった自身を重ねたのか。
 殺意はあった。布も、出刃包丁と鋸も用意していたのだから。
 一方―体の自由がきかない。気持ちも悪い。初めてのそれに混乱していただろうまつみは、命を奪われる時抵抗らしきものも出来なかった。
 首にかかった布が引き絞られる直前、
『待ってて……』
 言ったように聞こえた、と和真は供述している。彼女はすぐに失神し、間もなくその生涯を終えた。

 立輪と中河原からそれを聞いた時、先に有人が顔を押さえてうめいた。
『気付かねえのかよっ!』
 あざけるように怒鳴られた。
『お前は最後に待ってるって言ったんだろ? あいつ、だから……』
 マーメイドの命令で慶に別れ話を持ちかけたかもしれないけれど―


 人魚の涙が「工場」でやっていたのは海洋資源の開発、ではなかった。人体実験とも違う。
 海が開発出来るなら、よく似た構成の水分を持つ「人体資源」も開発出来るはずと考えたのだ。硫化水素発生のための遺体利用は、そのほんの小手試しだった。
 事件の捜査協力で日本に一時帰国した高山樹磨は、悪びれずに自説を繰り返した。
『我々は生命の神秘に敬意を表し、自然の恵みを感謝を持って使うゆえに、人体も余すところなく使うのだ』
 使い捨て文化からリサイクル文化へ。人体も「捨て」ず資源として利用するよう、人類は価値観を転換しなければならない―
『お金になることがわかっていたら、もう少しで死ぬという人間をほどほどの手当てで逝かせてしまうこともあるかもしれない。そこからは、利益のために人を殺して「遺体を作る」ことまですぐ一歩だわ』
 嫌悪も露に言った中河原と高山の話は平行線をたどったという。

『人を殺すんじゃないでしょ? だったら考えてみてもいいんじゃないかな、と思う』
 その報道を見ながら、くりくり目を回し、考えながらも羽美子は答えた。
 今回のことでは、自分たちは羽美子の両親には恨まれても仕方がない―慶は思っている。
 彼女は「向こう側」に行ってしまった。ずっと自分たちの情報を流し続け、有人の部屋番号を教えたのも彼女―本人が認めた。例の「怪文書」は撹乱のため、ヘブンズリングランクの幹部が書いたようだが。
 和真は殺害を堂々とコーディリアに電話で宣言すると遺体を深夜の駅前に放置した。
 篤高は偏執狂めいた父とは距離をおいていた。後に殺し方から父を疑った篤高に和真は平然と自白した。
 『何ってことしたんだ! その子にだって父親がいるんだよ!』
 絶望的な気持ちで詰問したが、父親を逮捕させることも出来なかったという。
 
 一方パスポートやイルカのマスコットを処分し、海浜公園まで運んで埋めたのはコーディリアだ。秘書役の幹部が車を運転して手伝ったが、彼は逮捕された後に釈放された。何一つ知らされていなかったからだ。布に包まれた重い生物状のものを、
『瀕死の人魚様だ』
 と説明され、本気で信じていたー

『間違ってないわ。まつみはちゃんとコーディリアさんに従ってたら、人魚様になれたんだからぁ!』
 犯人秘匿と死体隠匿で逮捕されたコーディリアが留まる署を囲むデモ隊の中に、羽美子が居たのはテレビにも映った。そのため親と大喧嘩中らしい。
『あたしは虐待児よ。お母さんはわざと「羽美子」なんていじめられるような名前を付けたのよぉ!』
 との主張に梨々果は冷たい批評を加えていた。実際は今一年にいる妹が「祖羅子《そらこ》ちゃん」だから、単にそういうことだろうと。

 マッドサイエンティスト高山の、人魚の涙のための馬鹿げた「工場」
 そこに利用価値を見いだした二つのグループ。
 一つは、選挙と政治スローガンのために、伝承の歌をなきものにしたかったラザファスタン人。ンマニ島の伝統社会を混乱させるためだけに高山の「工場」に投資した。
 二つ目は、死体処理という影によって結びついた国際的な裏社会。
 こちらからも資金提供を受けていたらしい。
 スポンサーの意向によりンマニ島民を工場に引きつけるために女神伝説を使い、まつみが利用された。両親が健康法の「教祖」である彼女は特別扱いされていた。いずれ親も入信させて「信者」ごと教団に引き込もうと考えていたのだろう。

 けれどあの日まで、まつみは自分が利用されているなど考えていなかったはず。
 「夢」と希望をもって人魚の涙のメンバーとしてンマニ島に渡ろうとした。
 それは浅薄なもので、まつみは簡単に気付き、夢から醒めた。
 一方死後工場に利用された妹のために、用意周到に工場と人魚の涙に切り込んだのはチー・シャオヤンこと日野篤高。その父親らしく充分な情報収集と準備をもって、だが利用されただけの少女に憎悪を育てたのが日野和真。 
 彼とまつみの人生が交差した時、運命が、決まった。
 

 潮風が慶と、松法秀英・さとえ夫妻の横を控え目に流れていく。
「……君は、私のせいであの子は死んだといいたいのか」
 風邪一つ引かせなかったからと? 秀英は鋭い声で言った。
「いいえ。悪いのはあの日野ってじじいです」
 娘を失う苦しみを刻み込むように知りながら、別の娘を殺害し、文字通り刻もうとした。
「それを言ったら、あの映画に連れてった僕のせいだってことにもなってしまいます。そうじゃない……。これは僕たちの想像に過ぎません。本当のところは、もう誰にもわからないんです」
 自分たちが松法みな美の友人として五ヶ月近く追い続けた結果を、ご両親に知らせたかっただけ。途切れ途切れ、慶はそう言った。
「一番苦しんでらっしゃるのは……僕らじゃなくて……おじさんおばさん、です……から……」
「君……」
 秀英の表情が何で変わったかに気付いた。
「泣いてなんかいません!……男は人前では絶対に……っ……ううっ……くうっっ!」



 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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