TOP > スポンサー広告 > title - 少女探偵団 大阪戦争? 福あり!プロローグ1TOP > 少女探偵団 大阪戦争? 福あり! > title - 少女探偵団 大阪戦争? 福あり!プロローグ1

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

少女探偵団 大阪戦争? 福あり!プロローグ1

「おはようございますっ!」 
 少女たちのさわやかな声が響く。
「おはようございます! こちら空きましたよ。どうぞ」
「ありがとうございますっ!」
 少女たちはにこやかに挨拶し合う。前線で敵を偵察する兵士のように緊張をみなぎらせながら。
 聖蓮《せいれん》女学院は小高い丘の上にあり、森に囲まれた白亜の校舎で生徒たちは穏やかに過ごしていると言われている。
 だが今、四階トイレに集まる少女たちの頬はいちように引きつっている。
 クリーム色の洗面台は横並びに三つ、ホテルか劇場のようにゆったりした作りで、前面の大きな鏡の上には白く愛らしい枠が付いている。
 ブレザースーツやジャンパースカート姿のあどけない少女たち数十人が、この広くはない洗面所に殺到し、笑みの貼り付いた顔で挨拶しては場所を譲り合う。
 ―美しい光景である。
 どこが? とは聞かないでほしい。そういうことにしておくのだ。
「おはようございますうっ!」
 その時、
 ドワーーン!
 大音響とともに少女たちの言葉が消えた。
 白い煙が治まり始めると、少女たちも膝などをはたき立ち上がり出す。が、ある者は崩れ落ちて再び床に倒れ、ある者は肘を押えてすすり泣き出した。洗面前には数人が横たわったままだ。
 少女たちは立ち尽くし、前よりももっと頬を引きつらせて互いの顔を窺う。
 と、一人がはっとしたように倒れた少女に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
 芝居のセリフのような明るい声。何人かが彼女に続いて身を投げ出したままの少女たちの介抱にかかった。
「きゃっ!」
 だが間もなく、彼女らはおびえた顔で動きを止めた。
 膝にかき抱かれた紺スーツの少女は腹を「茶色い」血で染め、
「痛いっ……助けて……」
 とうめく。もう一人は口から血とも唾液ともつかない液体を溢れさせ、うつろな目は天井を見上げたまま。横のレースのブラウスの少女は、腕を変にねじったまま人形のように揺らされるだけだった。
 少女たちは次々に天井を見た。廊下のそこに仮設の監視カメラがあると全員が知っていたからだ。果たしてスピーカーから女の声が流れ出した。
『受験生の皆さん、これは試験ではありません。不測の事故が起きました。皆さんは慌てずにトイレ横、または宿泊室となった教室横の二箇所の階段から直ちにグラウンドに避難してください。繰り返します。これは試験ではありません。不測の事故が起きました……』 
 小さな悲鳴とともに少女たちはいっせいに階段に突進した。
 と、一人が上を見上げて言った。
「先生。これで試験は中止になったんですか」
 群れの動きが止まる。スピーカーからは二度の咳払いの後、
『それは後ほど決定します。今はまず避難してください』
 と放送される。とたんに群れはぎくしゃくとスピードを落とし、少女たちは再び笑顔を作って行儀よく並んで階段を下り始めた。
 だがその前に、すでに走り出していた者たちがいた。


 ナナ子《こ》は走った。
 階段を二段飛ばしで駆け降りた。前には誰の姿もなく、後ろに聞こえる足音は遠い。
 ナナ子は何をしても人より早い。徒競走でもいつも一番だ。
 百回以上繰り返した模試で、そして昨日からの試験本番でその動きを抑えることは決して楽ではなかった。階段を疾走しながらナナ子は、
(なんで学校の廊下をこうやって駆けたことがなかったんだろ?)
 と考えた。すぐに、
(そんなこと、ぶつかっちゃって危ないからじゃない)
 と気づいた。「大阪人」ではあるまいし、ナナ子はそれがわかるくらいいい子なのだ。
 踊り場の窓からグラウンドの向こうの木々の緑と、冬の朝の水色の空が鮮やかに見える。
 気持ち良かった。こんな感じは久しぶりだ。
 受験のためにナナ子は色々なことを我慢した。テレビだって、一番気に入っている戦隊ものを除いては何も見ていない。
 ナナ子はこのところ、その番組の主人公にドキドキするようになった。画面の中に追うように彼を見てしまう。
 好きなんだ、と思う。
 これは困る。テレビのキャラを好きになってしまうなんて、まるでオタクではないか。
 秋葉原のオタクみたいになっちゃったらどうしよう―ナナ子の頭の中では、萌え~っっっ! と叫びながらよだれを垂らし、角と背びれを振り回して、狂暴な胴体にメイドエプロンを着けて水かき付きの足で地響きを立てる「オタク」怪獣が暴れ回っていた。
 ナナ子は外へ出た。
 玄関から上履きのままグラウンドに踏み込むと、遠くで先生らしい中年の女が手を振る。
 冷たい風が心地よい。オタクも試験も何もかも蹴散らしてナナ子は走った。
 走る。走る。
 グラウンドを半分突っ切り朝礼台で止まるのが、ちょっと惜しかったぐらいだ。
 大きく脈打つ胸に手のひらをあて、白い息を吐きながらナナ子は自然に笑っていた。
「受験番号と名前を……あなた!」
 近寄ってきた教師が絶句する。
 グラウンドに崩れ落ちてナナ子の意識は消えた。その腹は「茶色い」血に染まり、破れたクリーム色のブラウスの間からは肉までが覗いていた。



目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

小説へはこちらから
最新記事
最近の有無那
ボリウッド4のうち3つまでは見ました。あとは「きっとうまくいく」のみ。ついでにインド映画の御大アミダーブ・バッチャン、ハリウッド初出演の「華麗なるギャツビー」も見たいです…(7/9)
有象無象
連載メルマガ
現在連載中のメルマガはありません
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。