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ピンクのイルカが夢を見た 1ー2

 寮の花壇。まつみはジーンズの膝を境界の石に付けひざまづいていた。
 土の上を手で探り、静かに目で確かめて、軍手をはめた手をゆっくりと黒土に沈めると同じスピードで抜いた草を持ち上げた。目の高さまで持ってきて、茎の一本ずつ小さな葉の一つずつ土をはらってから横の山に捨てる―いや、そっと置いた。
 強い日差しの下、ふっくらとした頬が輝く。ピンクのシャツからのぞく白いうなじは痛々しくもまた生々しくも見える。有人はただ作業を見守った。
 とようやく彼女がこちらを見上げた。
「え、っと、回収。作業終わり。松法《まつのり》さん、だったよな?」
「まつみ、って呼んで。みんなそう呼んでるから。塩矢君」
 今度こそ有人は声が出なくなった。
 一年近く前の二年の夏休み。残留組の寮生で一斉に花壇の雑草抜きをした。
 有人は作業の終わりにリヤカーを転がして抜いた草を集めて回った。見るなり「終わったー!」と手を離す者も多い中、まつみはしばらく彼が近づいたことにも気付かなかった。
 この春同じクラスになり、一年の時から寮も同じだが、話をしたのは初めて。それくらい、まつみは人と話さなかった。
 明るいだが小さな笑みを浮かべ、まつみはリヤカーに草を乗せ始める。慌てて有人も手伝う。
 松法みな美《み》が誰にでも、
「まつみって呼んで」
 と頼むことを知ったのは、数ヶ月の後だった。


「みな美ちゃんってさ、理解出来ないほど真面目だよね」
 水泳講師の西田《にしだ》はカフェの椅子から足を放り出して言った。
「真面目なのの何が悪いんですっ! そりゃ、みんながみんな真面目にしてる必要はないし、正直言えば僕だってそいつはご免ってタイプですけど……でもまつみはまつみで、ああしてるのがいいんです! 第一……」
「いや。ぼくが見てた水泳クラスの範囲でってことだよ。みな美ちゃんは目的もないのにそりゃーもう真剣だった」
「……」
 慶がきまり悪げに黙る。羽美子が笑いをこらえたのを有人はただ横から見ていた。

 まつみの母が来てすぐに帰っていった翌日、四人での最初の行動はSKジムに行くことだった。
 学院最寄りのモノレール駅から三駅目の終点で乗りかえ、私鉄で一駅。寮生がよく利用しているスポーツクラブだ。まつみは毎週金曜日、その水泳クラスに通っていた。
 寮の門限は六時半。その直前に舎監に声もかけずに出て行こうとしたのを見て、有人はまつみが習い事をしていると理解した。定期の時間外外出は、あらかじめ届ければいちいち許可証をもらう必要がない。

 SKジムのフロントでもめているところに西田がやってきて、有人たちを近くのカフェに連れていった。サービス業だから騒がれるのはまずいと説明されて、四人は肩を縮める。西田はスポーツインストラクター専門の派遣会社の所属で、最近そのクラスを持ち始めたという。まつみを教えたのは三回だけだと断ってから続ける。
「普通、何か目標がないとそこまで練習には一生懸命にはなれないんだ。みな美ちゃんには、ぼくが知る限りそれはなかった。ダイエットはあの子には必要ないよね。高校生で習いに来る子には水泳部で記録を伸ばしたいとかいう子が多いんだけど、そうでもない。シャイなのかな? 話しかけてもあまりしゃべらないから、かえって気になった」
「それって、泳ぐのが好きだったから、じゃないですか?」
 有人は口をはさんだ。
(好きなことに夢中になるのは自然だよね?)
 今、自分の好きなこと、はわからないけれど……
「嫌いではなかっただろうね。うーん、だけど、ぼくの主観でしかないけど……みな美ちゃんはそうしなければ死んでしまうんじゃないか、って感じの気合いで泳いでた。正直、楽しんでるようには見えなかったな。残念だよ」
 泳ぐのってホントに楽しいんだけどね、と付け加える。
「まつみは……あ、あたしたちは松法さんのことをそう呼んでるんですけどぉ」
「へえっ、またそれも可愛いね!」
 慶が露骨に睨むのを今度ははっきり笑ってから羽美子が続ける。
「高校でオーケストラ部に入ってから、文化系だと運動不足になるから何かしなきゃって。水泳は全身運動で良いからってここに通うことにしたんです」
「高校生がそこまで健康管理なんて気にするもんなのかなあ。みな美ちゃんって大きな病気とかしたことあるの?」
「いいえ。なあ?」
「うん。それどころかあの子、中等部じゃ無遅刻無欠席だったよ。卒業式で表彰されてたもん」
 慶と羽美子の答えに西田はますます首をかしげた。
「まつみって中学じゃ運動系だったのか?」
「体操部」
 驚き顔の有人のささやきに羽美子が返す。
「あれで体動かすの大好き人間なんだよぉ。毎朝必ずストレッチをしたりとか。楡崎ぃ? そうだよねえ」
「はい。いつも見てます」

「…心配だね」
 西田の口調は初めに見せた軽さとは違った。助けにならず済まないと謝る。
「みな美ちゃんが家出なんて信じられないよ。女の子で考えられるのは、ろくでもない男に引っかかったってパターンだけど、君みたいに真っ当な彼氏がいたんならそんな心配もないし」
「……ありがとうございます。でも、僕はあいつが黙って出て行くほど思い詰めてたことを、わかってやれてなかったってことだし……今もって何がなんだか。僕では、頼りにならないと思われたのかって……」
 慶は小さく髪を横に振った。

 西田は前任の水泳講師にも声をかけると言ってくれた。連絡先に白雪寮の寮電を教え、塩矢か楡崎を呼び出すように伝える。学院では中高六年のうち最低二年間は寮に入ることが決まりだ。羽美子と慶は中学時代に義務を済ませ、高校入学の有人と梨々果だけが寮生だった。
「あ、そうそう。気になったんでみな美ちゃんに聞いてみたんだ。なんでそんなに頑張って泳いでるんだって? そしたら―」


 目次 

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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